開始10年「裁判員制度」から見えてきた"光と影" 3分の2の人が裁判員を辞退する理由

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裁判員裁判の死刑判決が高裁で破棄された事件(図:週刊女性PRIME)

“市民の感覚(常識)を裁判に持ち込む”という、そもそもの導入意図に反しているのではないか、と不満を抱いている人も決して少なくない。これにも瀬木教授は手厳しい。

「上級審で量刑が重すぎるとして破棄するというのは、制度全体を見れば、マッチポンプです。量刑に裁判員を関与させれば重くなるだろうということは、法曹関係者の多数が予測していたことだからです。

ところが、そのとおりになったら、今度は“重罰化の傾向がある”といって、上級審で破棄してしまうわけですよね。これでは国民を愚弄しているととられても、仕方ないのでは、と思います」

裁判員制度「これからの10年」

こうした問題を、現場の裁判官はどう考えているのか?

「上級審でひっくり返されてしまう事案があるからといって“意味がない”ことではありません。“裁判員裁判の判断だから、必ず正しい”のかと言えば、そういうものではありませんし、裁判の正しさは高裁や最高裁でも審理が行われて最終的に判断されているという点にある。それが前提ですから」(小森田判事)

「そういう気持ちになるのも理解できなくはないです。ただ、高裁、最高裁も真剣に考えて、そのうえで“市民の感覚の部分を考えたとしても、やっぱりどうしても受け入れられない”という、限界的な判断ということになっているのかと思います」(村田判事)

“破棄された”事件はメディアでも大きく取り上げられる。だが、実際は刑事事件の高裁での一審破棄率は制度導入を契機に、むしろ下がっている。2010年度は4.6%、その後、2015年度に14.2%まで増えたが、2018年度は11.9%だ。導入以前、刑事事件全体のそもそもの破棄率が17%超もあったことを考えれば、制度導入後は“市民感覚を反映している”ともいえる。

一方で施行10年間だけで見ると、たしかに裁判員裁判で出された判決の破棄率は上昇傾向だが、これは適切な数値に落ち着きつつあるという印象を受ける。前出・四宮教授も、その点を評価している。

破棄率が下がったということ、そして99.9%だった有罪率が今年の上半期には99.14%にまで下がったということは、つまりそれだけ一般常識からすれば“疑問のある”有罪が減って、無罪が増えたということ。これまでの刑事裁判を考えれば重要な変化です。市民の常識が反映された結果だといえます」

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