日本が及ばない「シンクタンク超大国」の実像 アメリカで国際政治の舞台に、監視も厳しく

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宮田:ご指摘のとおり、アメリカのシンクタンクは公的な外交の舞台の1つになっています。各国の政府は、アメリカのシンクタンクが提示する政策のアイデアをつねに注視しています。無視できないわけです。シンクタンクの発信力やネットワークの力を重視して、積極的に接触しているというのが現状です。その意味では、これもご指摘のとおり、アメリカのシンクタンクは国際政治の無視できないプレイヤーです。

シンクタンクの人材育成力

船橋:その発信力ですが、最近では、テレビも新聞もネットも、何か問題が起こったり、新しい政策が公表されたりすると、シンクタンクの研究員にコメントを求めるのが一般的です。そこにも、シンクタンク間の競争はあるわけですが、政策を説明する際に、専門の言葉ではなくて、一般の人にわかりやすく説明できる人のコメントが使われます。それが、一般の人々の政策リテラシーを高めるうえで役に立っている側面もあります。

船橋洋一(ふなばし よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など(撮影:尾形文繁)

政治家には、そうしたセンスを持っている人はいますが、政策を職業とする学者や研究者でそういう才覚のある人はそうは多くないのではないでしょうか。これはというシンクタンクは、そうしたセンスに優れた研究者をメディアに出そうとしています。

宮田:確かにそうですね。翻訳能力と言いますか、専門的な知識を一般の人にわかりやすく伝える能力が非常に優れているのは間違いないと思います。

そうした人材に恵まれている理由の1つは、アメリカのシンクタンクが、若手をどんどん取り込んで、自ら育成しているからです。インターンシップやフェローシップなどで、大学院を出たばかりの人材を鍛え上げていくシステムがあります。アメリカにはその伝統があって、例えば、ネオコンの代表的人物の1人で、ブッシュ政権で国防政策諮問委員会委員長を務めたリチャード・パールは、学生時代にシンクタンクで、冷戦期の対外政策形成に深く関わったポール・ニッツェの薫陶を受けています。若手が著名な専門家の間近で学びながら政策リテラシーを身に付けていくというサイクルが確立されているのです。

船橋:パールはプリンス・オブ・ダークネスなどと呼ばれました。

ワインバーガー国防長官の時代に国防次官補でした。そのときの国務次官補だったリチャード・バートとはプリンスの戦いと言われたものでした。バートはロンドンの国際戦略研究所(IISS)の研究員からニューヨーク・タイムズの外交安全保障の専門記者を経て、政府に入っていきました。そういう姿を見ていると、シンクタンクやメディアを転戦しながら武者修行をして、最終的に政策起業家として政府のプレイヤーとなるといった開かれたシステムが、アメリカの強さだと思えます。こういう“リボルバー”政策起業家のキャリア・パスがあるんですね。

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