国立がん研究センターの最新統計(2019年8月8日更新)によると、2009年から10年にがんと診断された、患者の5年相対生存率は男女計66.1%。過半数をゆうに超えている。
一方で、「がん=死」の先入観は相変わらず根強い。確かに、部位などによっては5年生存率が低いがんもある。関さんが罹患したすい臓がんの5年生存率は9.6%である。しかし、がんの部位や種類、ステージによっては、生活の一部として「付き合っていく病気」に近づいているのも事実だ。
それは治療の長期化を意味するため、治療費がかさむ可能性がある。だから会社を簡単に辞めてはいけない。関さんのように治療と業務内容のバランスをとりながら、働き続けられる方法を会社と交渉したほうがいい。
直属の部下3人の退職、さらに降格辞令が下りた
ただし、会社との交渉がうまくいっても、その状況が長く続くとは限らない。関さんが復職してからの半年間で、直属の部下5人中3人が退職。その穴埋め業務が、治療中の関さんの両肩にのしかかった。入院治療で彼が不在だった約2カ月間で、部下たちはかなり疲弊していたからだ。
関さんは復職3カ月後には時差通勤も時短勤務もなくなり、抗がん剤治療中なのに、勤務実態は入院前に逆戻り。以前の体力とは程遠いのに、だ。さらに1年後には、売り上げ規模が小さい支店への異動と降格を命じられた。
「病気をしたことで、その後の出世の道が閉ざされることは、一般的にも多いと思います。私も面接や人事に携わっていたので、会社側から見れば、ある意味、妥当な判断だとも思いますし……」
会社側と一社員の立場、関さんはつねにその両方の視点で冷静に話す。だが同時に、今の会社で働き続ける限界も知った。そもそも治療しながら働く制度もない会社で、自分は20年後も今の働き方を続けられるのだろうか、と。
その頃、新しい家族を授かることがわかった。2人目の子どもが生まれる以上、会社中心の働き方を見直してほしい、と妻は迫った。長女は当時まだ7歳で、関さんの体調への心配も言いふくんでいる。
妻の要望と気遣い、職場での降格と異動。その現状を打開する方法が、関さんにとっては転職であり、家庭中心の働き方に変える決断だった。
「病気を経験して、リアルな死を身近に感じた分、3年経っても元気なことで、どこか怖いもの知らずになっていましたね。退職しても、なんとかやっていけるだろうっていう、変な自信があったというか……」(関さん)
死を身近に感じることは、関さんのように楽観的になる以外のプラス面もある。健康な人と比べると、自分にとって何が本当に大切なのかという見極めも、今日1日のかけがえのなさも、切迫感がまるで違ってくる。
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