仕事は続けたい。だが、復職後は従来のようには働けない。そこで関さんは、翌2014年1月の職場復帰を前に、2点を軸に「慣らし運転」を決めた。
・体調を無理によく見せようとしない
・だが、慎重になるあまり勤務形態のハードルを下げすぎない
会社には、治療と業務を両立するための時短勤務案を提出した。主なポイントは以下の4つ。
② 術後の体力低下や、抗がん剤の副作用が強いために通勤電車を避け、午前中は2時間の時差出勤を希望すること
③ 残業なしの時短勤務
④ 給与の20%減額
会社にはがん患者が治療しながら働ける制度も、過去にがんで職場復帰した前例もなかった。だが、会社側は関さんの提案を快く承諾した。
もはや「ステージ4=末期がん」ではない
関さんのようにがん、しかもステージ4と診断されても、働き続ける人が増えているという。その背景にはがん医療の進歩がある。
がん専門医で、治療解説のユーチューバーでもある押川勝太郎さん(54歳)は、「医療現場では『ステージ4=末期がん』とは言いません」と指摘する。
がんの標準治療(成功率が最も高い治療)は、手術と放射線と抗がん剤の3つ。しかし、がん細胞が広がりすぎたり、他の部位に転移していたりすると手術で取りきれない。その状態が「ステージ4」だ。
「最近は抗がん剤の進歩もあり、投与でがん細胞が小さくなるか、逆に大きくならなければ、ステージ4のすい臓がんでも働けます。抗がん剤の副作用を抑えながら、治療と仕事を両立する方も増えています」(押川医師)
だが、治療しながら働けると言っても、関さんはすでに失った臓器も多い。
すい臓の3分の1と胆のうと脾臓(ひぞう)、胃と十二指腸の一部まで切除した。12時間以上に及ぶ手術により体重は20kg以上減少し、体力低下は著しいものだった。
「抗がん剤の副作用で、今も全身のしびれに終日悩まされています。手は冷たいものが触れなくなり、足は正座を1時間した後のようなしびれですね。それによって転倒する危険があり、階段の上り下りにはつねに細心の注意を払っています」
そう話す関さんとは4、5時間の取材を2回重ねたが、その状態で柔和な笑顔を絶やさず、いつもテンポよく、淡々と質問に答えてくれた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら