42歳「ステージ4のがん」の彼が転職できたワケ キャリア、家族とこうやって向きあった

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関さんは実際に「怖いもの知らず」で転職まで実現させた。退職前に有給休暇を使い、あいさつ回りで以前の取引先を訪れたところ、履歴書を人事部に送ってと誘われた。退職後は、ネットとリアルの人材紹介会社にも登録した。

転職については、病気のことを明かす必要がある。しかも、自分のキャリアを考えれば、関さんには転職理由を聞かれるのも予想できた。勤続15年で40歳。しかも2人目の子どもが生後3カ月、というタイミングなのだ。

「元取引先での役員面接でも、当然その質問が出ました。私は正直に『今後15年、20年と、仕事より家庭中心で働いていきたいからです』と答えました。それで不採用なら仕方ありませんから」(関さん)

「嫁の思いどおり?」の転職で手に入れた幸せ

過去の仕事ぶりや実績か。あるいは、その率直さが評価されたのか。答えはわからないが、関さんは元取引先に転職した。現在は抗がん剤治療で週1回は平日に休み、出勤時は定時に退社する働き方を続けている。

「患者仲間の間では、『がんがわかったら、会社は変えないほうがいい』と言われています。転職はうまくいくという保証もなく、リスクが大きいですから。私の場合は、珍しい事例だと書いておいてください」(関さん)

だが、世知辛い世の中で、関さんががんであることを明かし、家族にとってよりよい働き方を求めて、転職まで成功させた事実は少しも色あせない。

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「なんか結局、嫁の思うとおりに進んでいるんですよねぇ……」

関さんは転職についてそう語った。15年間勤めた会社への愛着は、関さん自身の予想以上に強く、冷静な彼が、「辞めるのに精一杯で転職先まで考える余裕がなかった」と補足した。1日4時間睡眠の会社人間で、子育ても妻任せだった関さんが、自分にとってかけがえのないものを最優先した結果だった。

そのせいか、先の「嫁の思うとおりに――」と話したとき、どこか不本意そうな文字面とは裏腹に、関さんの表情は少しうれしそうに見えた。

(敬称略。明日公開の後編に続く)

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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