十勝の食材で作る「美しすぎるクッキー」の凄み 趣味ではなくビジネスとして成功した秘訣

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転機が訪れたのは2007年。帯広市の食品製造会社に勤務し、商品開発から営業、衛生管理や商品仕様書の管理など、一連の作業を経験したことだった。実は通販会社のバイヤー時代にもたびたび北海道を訪れ、道内の農作物や乳製品に大きな価値を感じていた甲賀さん。

改めて十勝地方の農家や酪農家を訪ねて回ると、高い品質で安定して食材を供給する技術や責任感、ものづくりに取り組む真摯な姿勢に心が動かされた。「すばらしい食材を受け継いで、加工者として何か付加価値を付けた商品を開発し、十勝産の農作物や乳製品のよさを伝えられないだろうか」――。

そう考えて、ターゲットを定めたのがお菓子作りだった。十勝地方にはお菓子の原材料に最適な、てんさい糖、小麦粉、乳製品があり、新しい商品を開発できる予感があった。2009年に食品会社を退社し、開業の準備を開始。菓子製造業の許可を取り、2010年2月、帯広市内に「十勝菓子工房 菓音」として独立起業した。

店舗は「持たず・作らず」

まずは十勝産の食材で商品を試作。製菓を本格的に学んだことはなかったが、通販会社のバイヤーとして全国を巡っていた経験が生きた。「誰に、何を、いくらで、どのような内容で、包装はどうする、といったノウハウがあったので、十勝の素材ありきで何を作ればいいかを考えました」(甲賀さん)。

(左)本物のマッチ箱に収めて販売している「マッチ棒クッキー」。十勝産小麦粉のおいしさを伝えたい、という願いを愛らしいお菓子で表現した(右)「ドールハウスのお菓子が本物だったら…」という夢を表現。ホールケーキは約2cm、飾りの果物はわずか数ミリという繊細さ(十勝菓子工房「菓音」提供)

結果、たどり着いたのが、「十勝の食材でアートなお菓子を作る」ということ。まるでキャンバスに描いた絵のようなアイシングクッキー、箱に入れられ本物と間違うほど繊細なマッチ棒のクッキー、ケーキやタルトを親指の先ほどの小ささで表現するミニチュアクッキー……。風景を描く着色料は基本的に天然色素。緑はクマザサ、黄色はカボチャなど、地元産の食材粉末を使うこともある。

また店舗は当初から「持たず・作らず」。通販業界で働いていた経験から、完全受注生産で店舗は持たない、としたほうが「24時間・全国で商売ができる」と考えたのだった。注文を受けてから製造するため材料のロスが少なく、在庫も抱えずに済む。

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