十勝の食材で作る「美しすぎるクッキー」の凄み 趣味ではなくビジネスとして成功した秘訣

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翌月には同じ内容が全国放送でも流され、今度はそれを見た北海道庁国際課の担当者から、外務省とロシア連邦日本国大使館がモスクワで開く「地域の魅力海外発信支援事業」への参加を誘われることとなる。

これは日本各地の魅力発信を目的に、工芸品や食品、文化をモスクワの市民や業界関係者へPRするイベントで、甲賀さんはポテトフラワーの実演とワークショップを開催。世界中で身近な食材であるジャガイモが、美しい料理に変わることにロシアの人たちも驚き、感嘆の声を上げたという。

日本のアートフードとして発信!

この経験から、もしかしたらポテトフラワーを日本のアートフードとして、世界へ発信できるかもしれない、という思いが芽生える。その可能性を探っていくためには、さらなる情報発信と協力者を増やすことが必要、として、5月からは製法を伝授する教室を北海道内だけではなく、神戸や東京など全国で開催。

家庭料理として楽しんでもらうのはもちろん、講師として教えられる人を増やし、飲食店や婚礼会場での提供も視野に入れている。

一方で、課題もある。衛生的な問題から、調理後はすぐに食べる必要があるため提供場所は限定される。またジャガイモは長期保存が難しく、季節的に手に入らない時期はマッシュポテト用の乾燥フレークでベースを作り、自然素材の着色料で色付けをしている。

全国でポテトフラワーの作り方を教えている甲賀静香さん。東京では門前仲町の深川ワイナリーを会場に、不定期で教室を開いている(筆者撮影)

それでもジャガイモを使った「十勝発、日本経由、世界行き」のアートフード文化として、世界へ発信していきたい、という思いに変わりはない。「お菓子屋、というよりは表現者として、ワクワクする商品を作っていきたい。そして地元十勝や北海道の農家や酪農家の皆さんが作る素材のすばらしさに触れてもらえたら」。

個人事業主であっても、北海道産の食材の魅力を伝える、というコンセプトをしっかり持ち、見た目の美しさを重視して大切に育ててきたブランドイメージ。それを評価してくれる取引先とつながってこられたのは、単なる運のよさではなく、フットワークの軽さや期待に応える品質の高さがあったからだろう。

お菓子作りや料理が趣味の域を出て、ビジネスとして成立するかどうかの境目は、自身の強みをいかにセルフプロデュースできるかにかかっている。

吉岡 名保恵 フリーライター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、和歌山県の地方紙「紀伊民報」で記者として勤務。結婚を機に退職し、国立大学医学部の非常勤職員などを経てフリーに。現在はライターとしてビジネス、教育、ライフスタイルなどを中心に幅広く取材やインタビューを担当。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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