会わないでいるとますます会いにくくなる理由 統計的に見ればきれいな反比例の法則に従う
実は、この1/Tの法則が成り立つのは、面会だけではない。
例えば、すでに、アメリカのノースイースタン大学のアルバート・バラバシ教授は、電子メールを受け取ってから返信するまでの時間を調べた大量データを収集し、その解析を行っている。
改めて、この法則の観点からバラバシ教授のデータを見なおすと、この電子メールの返信までの時間も、電子メールを受け取ってから時間が経つほどに、返信する確率が低くなることがわかった。返信までの時間をTとすると返信確率はTに反比例する(1/Tに比例する)ことを見いだしたのだ。
すなわち、電子メールを受け取ってから、返信するまでの時間は、「1/Tの法則」に従うのである。メールを受けてから返信するまでの時間が長くなるほど、返信する確率が下がってくるのである。
さらに、大阪大学特任教授の中村亨氏らは、人間の日常生活の中での安静状態(動きの穏やかな状態)がどれほど続くかを調べた。安静は、立ち上がったり、人に話しかけられたりすることによって途切れるわけであるが、安静から活動状態への遷移がいつ起きるかを加速度センサで計測した。
そのデータも見なおしてみると、安静状態がT時間続くと、活動に転じる確率が1/Tになることがわかる。安静が2時間続いたときには1時間続いたときと比べて活動に転じる確率が1/2になるのである。ここでもまた「1/Tの法則」が成り立つことがわかった。安静を続けるほど、活動に転じにくくなるのである。
この中村氏らのデータのさらに重要な点は、健常者とうつ状態の人とを比較したデータをとっている点である。このデータを解析すると、健常者もうつ状態の人も共に「1/Tの法則」に従い、安静から活動に転じる。ところが、その安静から活動への遷移確率は、健常者のほうが、うつ状態の人よりもおよそ20%高いことがわかった。
すなわち、この活動への遷移確率を測定すれば、人がストレスの影響を受けていく変化を捉えられる可能性があるわけである。活動への遷移確率の計測は、ウエアラブルセンサで可能である。自分のストレスレベルを簡単に私たちが自ら確認できる可能性が出てきたわけである。
「続ければ続けるほど、止められなくなる」法則
さらに重要なことが見つかった。東京工業大学の三宅美博教授は私たちとの共同研究で、一般的に、動きを伴う行動の持続時間が、この「1/Tの法則」に従うことを見出した。ウエアラブルセンサで計測した、人間行動の大量の記録を解析した結果、一旦動きを開始すると、その動きは、時間が経つほどにやめる確率が小さくなることがわかった。
経過時間をTとすると、動きを中断する確率は、1/Tにきれいに比例して小さくなっていくのである。もちろん限界はある。場合によるが、この1/Tの法則は、20分から100分あたりに継続の限界がある。どこまで続くかは、そのときの環境条件による。
このように、最後にその人に会ってから次に会うまでの面会間隔、電子メールを受け取ってから返信するまでの時間、安静状態から活動に転じるまでの時間、動きを伴う行動の持続時間という4つの行動とその時間が、いずれも「1/Tの法則」に従う。これは、この法則が幅広い人間行動において基本的な役割を果たしていることを表している。
この法則は、言葉で表現すると「続ければ続けるほど、止められなくなる」ということである。その人と会わないでいること、電子メールに返信しないでいること、静かに休んでいる状態、動きをともなう行動は、どれもこの「続ければ続けるほど、止められなくなる」という性質があるのである。
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