中高生の1割が「自傷経験有」という日本の実情 大人には何ができるのか
子どもの自傷行為に気づいた際、大人はえてして「自分を傷つけるという行動だけ」を取りのぞこうとします。
しかし、彼らがそうせざるを得ない背景に、どんな困りごとがあるのか。まずはそこにアプローチしなければならないわけです。
私が何を言いたいかというと「リストカットを甘く見ないでほしい」ということです。「リストカットくらいじゃ死なないよ」と言う人がたまにいますが、「リストカットする奴は死なないよ」と言えるでしょうか。
ここまでの話を聞いていただいた方には「そのリスクはむしろ高くなるんだ」ということがわかっていただけると思います。
援助のゴールは
つぎに、自傷行為の援助について考えていきます。自傷行為をする子どもたちへの援助のゴールは「自傷しなくなること」ではありません。援助者との関係を壊さず、穏やかに子ども自身の本音や怒りの感情を伝えることができるようになること、というのが私の考えです。
にもかかわらず、支援者のなかには「あなたのためを思っているから怒っているんだ」と叱責したり、「なぜこんなことをするんだ」と理由を問いただす人がいます。
なかには、支援者自身の生命観や倫理観をもって、子どもに説教する人もいます。こうした関わり方は今すぐやめてください。効果がないからではありません。有害でしかないからです。
私たちがまず考えるべきことは「将来の自殺のリスクを少しでも下げること」であって「自傷行為をただちにやめさせること」ではないということ、それを心に留めておいていただければと思います。
ふだん私が診察する際にも、「死にたい」と子どもが口にする瞬間があります。それは治療が一段深まった証拠です。
自傷行為をしていないときはいつも死につながることを考えている子どもが、その本音を打ち明けてくれるようになったことを意味するからです。
安心して死にたいと言える関係性は、自傷行為の援助において、とても大切な一歩です。
「死にたい」という言葉の向こう側、あなたをそこまで追い詰めていることについてもう少し聞かせてほしい、と聞き返せることが大事であって、自殺が良いか悪いかなんていう哲学的な議論をする必要はないんです。
また、子どもの自傷行為にまわりの大人が気づいた際、「親には絶対に言わないで」とお願いされる場合もあるかと思います。