中高生の1割が「自傷経験有」という日本の実情

大人には何ができるのか

それを1人ないし2人の養護教諭で対応するとなれば、とてもたいへんなことだと思いませんか。

そんな状況下でなぜ学校はまわっているのか。理由はかんたんで、ほとんどの子どもが助けを求めていないからです。

平成18年に文科省が行なった「保健室利用状況調査」によると、中学生の自傷経験率は0.37%、高校生だと0.33%という結果が出ています。

私たちが行なった調査結果とはだいぶちがうと思いませんか。

孤独ゆえに

私たちの調査は無記名の自記式アンケートで行なっていて、じつはここが重要なポイントです。

海外の先行研究でも指摘されていることですが、面接調査など匿名性を確保しないなかで実施する場合、自傷行為の経験率は非常に低い結果が出ることがわかっています。

松本俊彦(まつもと としひこ)/1967年生まれ。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、自殺予防総合対策センター副センター長。おもな著書に『薬物依存の理解と援助』(金剛出版)、『自傷行為の理解と援助』(日本評論社)、『アディクションとしての自傷』(星和書店)など多数(写真:不登校新聞)

「対面では正直に話しづらいけど、匿名性が確保されていれば本音が言いやすい」ということは、自傷行為は子どもたちにとって、恥ずかしい問題または他者に言いにくい問題として認識されているのではないかということが推察できます。

いずれにせよ、私たち大人が気づいているのは、氷山の一角だということであり、ほとんどの自傷行為は他者に気づかれていないということになります。

子どもたちはなぜ、孤独な状況下で自傷行為をするのでしょうか。私たちの調査によると、半数以上の子どもが「不快感情の軽減」を理由に挙げています。激しい怒り、恐怖感、緊張感、不安感などに襲われたときに、誰の助けも借りずに、自分だけで解決する方法が自傷行為だ、ということです。

死にたいくらいつらい今を一時的にやりすごすために、生きるための「孤独な対処スキル」として自傷しているということです。

ここで、疑問に思う方もいるかと思います。自分の身体を傷つけると、どうしてつらい気持ちが楽になるのでしょうか。

1980年代、自傷行為をくり返す人とそうでない人を集め、一斉に自傷してもらい、その前後で血液中の成分がどう変化するかを比較する実験が行なわれました。現在では倫理上、絶対できないでしょうね(苦笑)。

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