中高生の1割が「自傷経験有」という日本の実情 大人には何ができるのか

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結果から言うと、自傷行為をくり返していた人たちにだけ見られた反応がありました。自傷行為のあとでは、ある物質の数値が上昇していたんです。

かんたんに言えば「脳内モルヒネ」、もっと俗っぽく言ってしまえば「脳内麻薬」と呼ばれる物質で、非常に強力な鎮痛効果をもたらします。

とてもショックな出来事が起きたとき、身体に痛みを与えることで「脳内麻薬」が分泌され、自分の意識をつらい感情から少しだけ切り離せるようになるわけです。

自傷行為をしたあとの気持ちを尋ねると「ホッとする」「スーッとする」といった安堵感や爽快感を挙げる子が多くいます。これはある意味で、自傷行為が持つメリットだと言えます。

では、どんどん切らせてもよいかというと、それはまた別の問題です。自分を傷つけながら生きていくということは、一時しのぎでしかなく、根本的な問題解決になりません。

もちろん、根本的な問題解決なんて、誰しもできるわけではありません。子どもにしてみたら、つらい現実を変える手立てなんてそう多くありません。でも、そこで抱えたつらい気持ちだけは自分で変えることができる、これが自傷行為の生き方です。

でも、この状況は折れた骨はそのままで、痛み止めを毎日飲んでその日をやりすごしているようなものです。長期的に見た場合、子どもが置かれている困難さはどんどん増してしまう。これが自傷行為における最大のデメリットです。

自傷行為をくり返すとエスカレートしてしまう

デメリットはそれだけではありません。ひとつは「慣れ」です。自傷行為には鎮痛効果があるとお話しましたが、くり返すうちに慣れが生じます。

当初と同じ鎮痛効果を得たい場合、自傷の回数が増えるほか、自傷の程度も深刻になることから、命に直結する事故につながってしまうわけです。

もうひとつは「ストレスへの脆弱性」です。以前ならばやりすごせていたストレスに対し、自傷しないとやりすごせなくなってしまうのです。

ここで気をつけなければいけないことは、「自殺」のリスクが急激に高まることです。

イギリスで行なわれた研究によれば、10代で自傷行為を経験した若者を10年間追跡調査してみると、未経験者と比べて、自殺リスクが400倍から700倍高いことが明らかになりました。長いスパンで見た場合、かなりの子どもが自ら命を絶っているということになるわけです。

先ほども触れましたが、自傷行為をする子どものほとんどは、他者に助けを求めません。

つまり、自傷行為とは、たんに自分の身体を傷つけることだけを指す言葉ではないということです。傷を放置したり、誰かに相談できないこと、これらを総じて自傷行為と理解すべきだと私は思います。

次ページ自傷行為の背景にある子どもたちの悩み
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