ブランドと消費者の「関係」が逆転した必然 ネット社会による相互作用がすべてを変えた

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出典:『ほんとうの「哲学」の話をしよう  哲学者と広告マンの対話』より

深谷:ブランドと刑務所ですか。何か似て非なる、でも同じ方向性を感じます。

ブランドがファンによって監視され、操られる

岡本:刑務所といっても様式が独特なのです。その建物は、いくつもの独房が環状に配置されていて、すべての部屋に中央の監視塔に向いた窓があります。塔のてっぺんにいる看守はそこからすべての収容者を監視することができる一方、独房からは監視塔の内部は見えず看守の姿も見ることはできません。

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そのため収容者はたえず監視されているという意識をもち、監視の視線を内面化していくのです。それによって支配に服従する従順な主体が形成されていくというわけです。

この構造が、実体が見えないブランドというものに支配される従順なファンという、ブランドとファンの関係に似ているのではないかと思いました。そしてこの関係が逆転しつつあるのが、いまの状況なのではないかと。つまりいまは、ブランドがファンによって監視され操られるようになっている、ということです。

しかも、かつてファンにとってブランドの正体が見えなかったように、いまはブランドにとってファンはそこにいるのに見ることができない。そのためブランドにとってはつねに監視されているという心理的抑圧が働く。

そこでよりよく、よく多く取り上げてもらうために、ブランドはファンの視線の下に回り込もうとする。だとすれば、現在のブランドとファンの関係は、かつての看守部屋が中央の舞台に置かれたかたち、まさに「円形闘技場(コロッセオ)」の構造になっているのではないでしょうか。

岡本 裕一朗 玉川大学 名誉教授

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おかもと・ゆういちろう / Yuichiro Okamoto

1954年福岡県生まれ。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。著書『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)は、21世紀に至る現代の哲学者の思考をまとめあげベストセラーとなった。ほかの著書に『フランス現代思想史』(中公新書)、『12歳からの現代思想』(ちくま新書)、『モノ・サピエンス』(光文社新書)、『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)など多数。

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深谷 信介 博報堂 博報堂ブランド・イノベーションデザイン副代表、スマート×都市デザイン研究所所長

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ふかや しんすけ / Shinsuke Fukaya

1963年石川県生まれ。名古屋大学未来社会創造機構客員准教授、富山市政策参与ほか。慶應義塾大学文学部人間関係学科卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了。博報堂では、事業戦略・新商品開発などのマーケティング/コンサルティング業務・クリエイティブ業務やプラットフォーム型ビジネス開発に携わり、都市やまちのイノベーションに関しても研究・実践を行っている。共書に『未来につなげる地方創生』(日経BP社)、『スマートシティはどうつくる?』(工作舎)などがある。

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