ブランドと消費者の「関係」が逆転した必然 ネット社会による相互作用がすべてを変えた

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岡本:面白いですね。非常によくデジタルネットワークのイメージを表していますよね。クリエーティブな現場というより、間主観性の実験室のような感じ。

「存在するとはインタラクトし合うこと」

深谷:ゲーム開発と一緒ですね。ある程度完成度の高いベータ版でまずはバンと出して、バグを一般ユーザーに見つけてもらってマーケット上でどんどん進化させていくというやり方です。反応率の計算やそれに対する改善策の抽出や選定、発信はそのうちAIが担当するようになるかもしれないですけど、いまのところまだ人間がやっています。

岡本裕一朗(おかもと ゆういちろう)/ 1954年福岡県生まれ。玉川大学文学部名誉教授。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。著書『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)は、21世紀に至る現代の哲学者の思考をまとめあげベストセラーとなった。ほかの著書に『フランス現代思想史』(中公新書)、『12歳からの現代思想』(ちくま新書)、『モノ・サピエンス』(光文社新書)、『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)など多数(写真提供:中央公論新社)

岡本:そうすると、広告の基本は差異をつくるという行為ではなくなってきたということですね。新たなキーワードは「インタラクト」つまり相互作用。広告の差異は、広告の発信側とその受け手とが無限にインタラクトし合うなかで、その瞬間瞬間に構築されては一部破棄され、また更新されて、その関係性のなかでそのつど像を結んで確かめるというイメージですね。

深谷:それが広告だけでなく、ものづくりもいま、そのサイクルのなかに取り込まれつつあるように思います。ある程度固定化した構想・企画・生産体制のなかで品質・機能・生産性を上げていくというやり方から、世の中のオープンソースのなかから積極的にいろいろな知恵を入れていいものにしていくというプロセスの変化により、 そのプロセス自体がいまは有益なプロモーションになっているのです。つまり、広告とものづくり・サービス開発がシームレスで進むというところまできています。

岡本:わかりました、それがおそらくポストモダン以後の1つのイメージなのでしょう。

「存在するとはインタラクトし合うこと」というデジタルネットワーク社会の状況について、哲学的な考察を行っている1人にフランスの哲学者ブリュノ・ラトゥール(1947年~)という人がいるんですが、彼が最近提唱している「アクターネットワーク理論」がいま、社会学や経済学、経営学、情報論などの領域で使われはじめているんですね。

アクターネットワーク理論というのは、社会を脱中心的なネットワークとして捉えて、社会や自然にあるあらゆるものをアクター(行為者)として、それらが結節点となって絶えず相互作用して変化していくという理論です。

つまり、人間と人間の関係だけではなく、生物も無生物も、人間も非人間も、自然も人工物も、そういった区別を取り払ったすべてのものを含めた一連の要素が、相互にネットワーク化されインタラクトし合うものとみなして社会全体を見ようという発想です。当然、そこにはコンピュータもAIもアクターとして入っています。

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