ブランドと消費者の「関係」が逆転した必然 ネット社会による相互作用がすべてを変えた
岡本:難しいですか。だとしたら、深谷さんは株には手を出さないほうがいいかもしれませんね(笑)。というのは、ケインズはこれを株投資家の行動パターンを説明するたとえ話として示したんです。要するに株式投資で成功するには、市場参加者の多く(美人コンテストに投票する人々)が、値上がりするであろうと判断する銘柄(この人が美人と判断する写真)を選ぶことが有効だというわけです。
でも、私のポイントはそこではなくて、この美人投票での評価基準にはどういったものがあるかという点で考えてみたいのです。深谷さんが最初におっしゃった「自分の『主観』で選ぶ」というのがまず1つありますね。それから「『客観』的に美人とされる条件を満たしている人を選ぶ」という基準もありえます。そして3つ目が「他人の評価を予想して選ぶ」というもの。深谷さんの回答もこれでしたけれども、これって主観でしょうか客観でしょうか?
深谷:うーん、どちらでもない、その中間というか。
岡本:そうです。この考え方を「間主観性」(相互主観性あるいは共同主観性とも)と言います。現象学の創始者エトムント・フッサール(1859~1938年)が創り出した言葉です。
多くの人たちが、他人の考えをお互いに予想しながら、自分たちの考えを形成するという意味になります。広告が成立するのもそのような場所なのではないでしょうか。
クリエートから「インタラクト」へ
深谷:確かにそうです。ピンときました。
インターネット以降、広告のつくり方が最も変わったのは、ベータ版(試用版)からでもはじめるようになったことです。ターゲットはかなり細かく設定して、この人のインターネット上の行動パターンはこうだからこういう嗜好性をもっている、なので商品としては20グループぐらいあるうちのこの3グループが効きそうだ、ということで発信場所やタイミングを決めて発信するという手法です。
そして人々のリアクションを見ながら反応値がいいものをブラッシュアップしていくのです。よくクリックするとか、滞在時間が長いとか、スマホを触っているときの行動がデータとしてほぼリアルタイムで戻ってきますので。
つまり、こちらからの3つとか4つのベータ版と、受け取った側のさまざまな反応とのインタラクティブのなかで、PDCAサイクルをグルグル回して反応率を上げていって、最終的に商品購入につなげる。
こうしたやり方がデジタルネットワーク時代の広告の主流になってきているわけですが、これはまさに間主観性を使っているのではないかと、先生のお話を聞いて思いました。
広告をつくる側からすれば、ポストモダン的な昔の広告のようなアイデアやメッセージなどの創造力の勝負とは一線を画すやり方で、インタラクティブに反応値を上げていくというスキルは飛躍的に向上し、広告展開をはじめてから随時内容や手法がアップデートされていきます。