ドイツに財政出動を期待してもダメなワケ 国民の借金嫌いに連立政権は不安定

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実際、2009年に連邦基本法(憲法に相当する)を改正し、債務危機時に強化したEUの財政規律よりも一段と厳しい規律を課している。そこでは、連邦政府と州政府の財政収支の均衡化を義務付け、連邦政府は2016年以降、構造的財政収支(景気循環と一時的な要因を除去した財政収支)のGDP比をマイナス0.35%以下に抑えることが求められ、州政府は2020年以降、構造的財政収支の赤字が認められなくなる。

今年の同国の構造的財政収支はGDP比1.5%程度の黒字が見込まれ、国内法の厳しい財政規律に照らしても財政の拡張余地はある。政府関係者の間からも財政の拡大余地を認める発言も聞かれ始めているが、今のところ実際の財政出動の必要性を指摘する声は少ない。景気後退の可能性があると言っても、現時点ではごくわずかなマイナス成長にすぎず、雇用環境が底堅さを保っていることから、国民の間で差し迫った財政出動を求める声は必ずしも多数意見となっていないためだ。

不安定な政治情勢で財政出動を議論できない

不安定な政治情勢も本格的な財政出動を難しくする。2018年3月に始まった第4次メルケル政権は、第1次と第3次メルケル政権に続き、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の2大政党が連立を組む大連立政権だ。難民危機対応や気候変動対応をめぐって政権与党に対する風当たりが厳しくなったことに加えて、大連立内で独自色の発揮が難しくなったSPDの党勢凋落が著しい。

最近の世論調査では、CDU・CSUが20%台後半の支持率で第1党の座を死守するが、SPDは10%台半ばで史上最低を更新、左派第1党の座を躍進著しい同盟90・緑の党(以下、緑の党)に奪われている。一部の調査では右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)の後塵を拝する有り様だ。5月末に行われた欧州議会選挙でSPDは過去最低の得票に沈み、ナーレス党首は辞任に追い込まれた。9月1日に行われたブランデンブルク州議会選挙では辛うじて第1党の座を死守したが、同日のザクセン州議会選挙では1桁台の得票にとどまり第5党に転落した。

SPDは12月の党大会までに後継党首の選出と連立継続の是非を判断する。連立解消時には前倒しの連邦議会選挙となり、SPDは大幅に議席を失うことになる。党勢回復を優先し、今のところ連立内にとどまっている。次期党首は、現路線を基本的に継続する党内主流派と、大連立内で中道化した党の左傾化を目指す若手改革派で争われると見られている。

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