脳科学者が語る「直感をバカにしてはいけない」 自分の理性と感情はどれだけ信じられるのか

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――でも私たちはお酒を飲まなくても、ゴソッと記憶の抜けることがあります。これは大手企業に勤める30代女性の話ですが、業務と関係ない内容を1年ほど真剣に勉強したのに、いざ学んだ内容の雑談になると、まったく話ができなかったというのです。要は記憶を取り出せなかった。でも「あんなに勉強したのに」という熱い気持ちだけは残っていたそうです。このとき、脳に何が起こっているのでしょうか?

実は、脳はエッセンスだけをギュッと凝縮する癖があるんです。概略や印象的なものだけを頭に取っておく性質があります。

「情報」より「感情」が記憶に残る

例えば、海外旅行に行ったとします。ひとしきり街を歩いた後に、「あそこの通りに何がありましたか?」「看板には何と書いてありましたか?」と聞かれても細部を思い出すことは難しいものです。でも、「あの通りは安心して歩けそうな感じがしましたか?」と印象を聞かれると、人は「はい/いいえ」とはっきり答えられるものです。

初めての土地に行くと、「この通り、危なそう……」「この大通りは安心だ」などと思いながら歩きますよね。要は、脳が細部ではなく本質を一瞬で掴んで残す。これが生き物として非常に大事なんですね。例えば子どもの頃の授業を思い出してみると、内容は思い出せないけど、「あの先生は面白かった」という感情は残っています。

そのときの感情を覚えていれば、「あの先生の何が面白かったんだっけ? 使っていたのはどんな教科書だったっけ?」と、必要になったらもう1度細部を勉強し直すことができるわけです。だからご相談の方は、真剣に勉強した感情、エッセンスがきちんと残っていたことがすごく重要なんです。

感情が残っている、脳としてはそれでもう十分です。生物としていちばん大事なことを脳に残しているので、いつでも立ち戻って学んだ本を読めばいい。だからご相談の方は、勉強した詳細を思い出せなかったとしても脳に問題があるわけではないので、どうぞ安心してほしいのです。次にまた動き出せる手がかりのあることこそが、すばらしいのです。

(次回につづく)

横山 由希路 フリーランスライター・編集者

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よこやま ゆきじ / Yukiji Yokoyama

神奈川県生まれ。東京女子大学現代文化学部卒業。エンタメ系情報誌の編集を経て、フリーに。コラム、インタビュー原稿を中心に活動。ジャンルは、野球、介護、演劇、台湾など多岐にわたる。

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