脳科学者が語る「直感をバカにしてはいけない」

自分の理性と感情はどれだけ信じられるのか

私たちの脳にはこの富士山の絵(写真)のように膨大な情報があるのですが、意識にのぼっているのはほんの上澄みだけ。私たちは意識のある上の部分だけをつなげて、論理や証拠と言っています。理性とも言いますね。でも物事の脈絡は山の頂から下の部分で、人間はこれら大部分の情報に対して無自覚です。私たちが普段理性と呼ぶものは、そんなに信頼できるものでしょうか。私は理性的と呼ばれるものに対して、いつも疑いの目を持っています。

恩蔵先生が描いた富士山の絵と脈絡の話(撮影:大澤誠)

ご質問の選挙の話に戻ると、横山さんは脈絡として候補者情報をたくさん仕入れて、積み重ねていったのだと思います。では脳は最終的にどう決断しているかというと、直感なんです。論拠をたくさん並べながらも、決めているのは自分が意識していない感情の部分で、決断時に脳の中で「よし!」と、大きくジャンプしている。

人間はIQより感情に左右される

――具体的に詳しく教えてください。

意思決定を感情が担うことは、アメリカの鉄道建築技術者だったフィニアス・ゲージさんの例がわかりやすいと思います。この方は大きな鉄の棒が頭を貫通する事故に遭ったことで、脳の中で感情に重要な役割を果たす前頭眼窩皮質(ぜんとうがんかひしつ)を損傷しました。

恩蔵絢子(おんぞう あやこ)/1979年生まれの脳科学者。専門は自意識と感情。2007年に東京工業大学大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻博士課程修了、学術博士。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学にて非常勤講師を務める。著書に『脳科学者の母が、認知症になる ~記憶を失うと、その人は“その人”でなくなるのか?』、『化粧する脳』(茂木健一郎との共著)、訳書にジョナサン・コール『顔の科学−自己と他者をつなぐもの』、茂木健一郎『IKIGAI−日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣』がある。(撮影:大澤誠)

彼は言語能力を含むIQ(知能指数)が事故の前後で変わりませんでした。でも時に衝動的になるなど、感情面に問題が表れるようになり、言うべきでない発言をしてしまったり、危険なものに手を出してしまったりするんですね。最終的には「今、何を買うべきか」といった日常の些細な意思決定ができなくなりました。

IQに問題はなくても、感情に問題があると意思決定ができない。「決める」というのは、根本的に感情が担うものなのです。

――感情がそれほど意思決定に大きな影響を及ぼしているとは知りませんでした。

わかりやすい例が、結婚の決断です。人は結婚を意識するようになると、「彼は家族とこういうふうに接するんだ」などと相手の情報を集めていきます。でも、最終的に決めるのは相手のスペックではなく、「この人だ」という思いです。「こっちにするぞ」と決定する感情の力は、私たち生き物が太古の昔から生きるか死ぬかの判断を延々と続け、そこで蓄えられた重要な意思決定の能力なのです。

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