「機動戦士ガンダム」から40年経て語られる真実

「アジア主義者としての安彦良和」の本質

杉田:法華経的な超越性は、近代日本人にとって、たぶんマルクス主義に匹敵するほどの強力な超越性をもたらしたと思うのですが、安彦さんはだからこそ、法華経的なものをすごく警戒しているのかもしれません。アナキズムまではまだ許容できるけれど、共産主義に対しては警戒心が強いというのも、そのへんに関わるのかもしれない。

逆にいえば、アジア主義はそういう超越的な思想とは違う。ただ、安彦さんのそうした無意識の抵抗感の正体は、わかるようでよくわからないところがあります。

例えば『ガンダム』のシャア・アズナブルは、ニューエイジ的なものとも重なるニュータイプという革命思想を急進化して、ほとんど超国家主義者たちのように、急進的な社会変革を実現しようとするんですね。シャアは煩悶青年であり、北一輝とも共通するマインドがある。

安彦さんはアニメ版の『ファーストガンダム』を10年がかりで『機動戦士 THE ORIGIN』としてマンガ作品にリライトするのですが、そのなかで、シャアというカリスマ的な人間をひたすら平凡な「人間」の水準に引きずり下ろそうとします。シャアをカリスマ的ではあるけれど、ただの弱い人間として、単なる煩悶青年として描き直すんですね。

中島:安彦さんは、石原莞爾よりも本当は北一輝のほうに関心があるのではないか、と感じました。マルクスだって天皇だって手玉にとってしまおうとするような、そういう北一輝のほうが安彦さんの好みっぽい。石原莞爾、北一輝、宮沢賢治という国柱会(日蓮宗の団体)のラインが見え隠れしますよね。安彦さんには『イエス』という作品もあるから、宗教に関心がないわけはない。

杉田:むしろ宗教的な超越性に対する人一倍強い欲望があるがゆえに、その危険性に対する警戒心も人一倍強いのかもしれません。

『ガンダム』と『新世紀エヴァンゲリオン』

杉田:ちなみに中島さんは、『ファーストガンダム』をご覧になっているんですか。

中島:ちらっとだけ見てはいました。確かずいぶんプラモデルがはやっていましたね。

杉田:本放送は1979年ですから、僕も中島さんも4~5歳で、リアルタイムで視聴したわけではない。ちょっと世代的には乗り遅れたという感じでしょうか。

中島:ちゃんとは見ていないけれど、話題にはなっていたから、子どものときにちらっと垣間見た、という程度です。

杉田:中島さんはいろいろな場所で、『新世紀エヴァンゲリオン』の話をしています。ちょうどアジア主義の研究をしつつあるときに、人気があるということでたまたま映画館で観たら、現代における超国家主義的なものの現れを直観したんだと。個々人がコミュニケーションの壁を超えて、透明に一体化する「人類補完計画」というやつですね。

中島:これは石原莞爾の世界そのものじゃないかと感じたんですよ。『エヴァンゲリオン』がこれほど多くの若者の心をつかむのなら、石原の『世界最終戦争論』だって、多くの人の心をつかむのではないか。石原莞爾的なものが現代にリバイバルしているのではないか。そう感じた瞬間でしたね。

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杉田:『ガンダム』でいえば、富野由悠季さんの描くシャアのほうが、さらに超国家主義者のマインドに近いのかもしれません。人類そのものに絶望して、世界最終戦争を経て、人類を浄化してその先に新しい世界秩序を目指そうとする感覚が強いと思います。『エヴァンゲリオン』よりも超国家主義的な色が強いかもしれない。

安彦さんは、若い頃の天才的な富野さんがイエスだとしたら、自分はその出来の悪い弟子としてのペテロなんだと言っています。

とすると、富野さんが磔刑にされずに老年まで生き延びたイエスであり、観念的に暴走するのだとしたら、自分はそれをリアリズムのほうに引きずり下ろさねばならない。もしかしたら、安彦さんはそういう使命感を持っているのかもしれません。

安彦さんは、富野さんのなかのニューエイジ的で超国家主義的な面をすごく警戒しているし、ファンの人々がシャアをカリスマ化したり、ニュータイプ思想を暴走させたりすることへも批判的です。延々とそういう作業をしているともいえます。

(次回につづく)

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