「機動戦士ガンダム」から40年経て語られる真実

「アジア主義者としての安彦良和」の本質

中島:私は竹内好の議論を踏まえながら、アジア主義を3つに大きく分類しています。1つ目は覇道的な、政略的なアジア主義。2つ目は、心情的なアジア主義。これは宮崎滔天などの大陸浪人のなかにあらわれる義勇心のことです。3つ目として、思想的なアジア主義というものがある。例えば大川周明や岡倉天心のような人々が示している思想の側面です。

私自身は、この2番目と3番目の中間というか、心情としてのアジア主義と思想としてのアジア主義が混在している辺りを重視しています。どこまでが思想で、どこまでがその人の心情的ロマンなのかが、はっきりとはわからない、そういうところ。そこがアジア主義のいちばん面白い真骨頂だと思います。

安彦さんはまさにその辺りの、思想と心情が混在するようなアジア主義の姿を、何とかして描き出そうと苦闘してきたのではないか。

あえて描かれなかったもの

中島:ただ、安彦さんがなぜここに突っ込まないのか、と気になる点もあります。杉田さんも指摘されているように、それは「宗教」の問題です。『虹色のトロツキー』には石原莞爾があれだけ出てくるのに、信仰していた日蓮宗と法華経の問題が出てこない。戦前の社会運動家、北一輝については、あえて避けたそうですね。

杉田:北一輝について1冊のマンガを描くプランもあったそうですが、北一輝の宗教的な側面がどうしても理解不能で、企画を放棄したそうです。

中島:どう考えても宗教の問題が不可欠のはずなのに、そこをあえて避けているところ。それが逆に面白く感じます。石原の宗教へのこだわりは、例えば満洲国建国に至る重要な会議で「南無妙法蓮華経」と書かれた横断幕が掲げられたとか、日蓮の誕生日の2月16日に異様な思いを持っていたとか、あるいは石原の『世界最終戦争論』も、法華経的なビジョンに基づいて書かれたもので、明らかに宗教書です。

杉田:安彦さんは、奥さんとのロマン主義的な恋愛とか、煩悶青年としての石原莞爾の側面は意図的に削ぎ落としていますね。

中島:安彦さんは、一見徹底したリアリズムを貫いているようにみえて、そのリアリズムが放つ一瞬のロマン主義をも表現しようとしている。アジア主義者たちが必然的に持つようなロマンの形というのかな。そういう人間観が根底にありますね。

杉田:ロマン主義というと、評論家の松本健一さんの影響もありそうです。

中島:松本さんと安彦さんはほぼ同じ世代ですよね。つまり、学生運動に身を置いた人たちが反転して、超国家主義とかアジア主義に関心を持った、そういう世代です。あの頃は、超国家主義者たちのなかでも圧倒的に北一輝の研究本が多くて、その次が石原莞爾だと思う。学生運動世代の人たちが、とくにこの2人の中に革命のロマンを託していったのではないか。

北一輝は魔術的というか、どこまでが宗教でどこからが策略なのかも見えづらい、謎めいた人であり、天皇の存在をすら道具主義的に利用しようとするような、異様な革命思想を展開しました。そういうもののロマンに憧れた、という世代的な要素があるのでしょう。

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