「アリこそ最強昆虫」と断言できる驚異の生態 「現代の南方熊楠」が危惧する生態系の未来

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――非常に不思議な虫ですね。

小松:はい。さらにアリヅカコオロギの中にもいろんな種がいますが、それぞれ違う習性や特徴を持つこともわかってきました。例えば、シロオビアリヅカコオロギとミナミアリヅカコオロギという両種。

前者は前あしでアリの頭をたたき、口移しで食べ物をもらうというような行動をみせます。一見微笑ましくも見えますが、これはアリの習性を巧妙に利用して食べ物をせしめているにすぎず、人間の感覚で言う「仲良しこよし」とはまったく違う関係です。

一方、ミナミアリヅカコオロギは、アリたちと緊張関係にあり、一定の距離を保ちながら近づき、アリの食べ物をかすめとって逃げるような行動をみせます。同じアリヅカコオロギでも、両者のアリに対する姿勢は対照的であったりします。

(左)シロオビアリヅカコオロギ、(右)ミナミアリヅカコオロギ(撮影:小松貴)

――アリの巣で暮らすという生態もすごいですが、さらにアリヅカコオロギの種による生態の違いを調べられるというのもすごいです。

先日『NHK ダーウィンが来た!昆虫スゴすぎクイズ図鑑』という本が出版され、なかでもアリたちの生態が多様で面白いと感じました。巣の中でキノコを栽培して食料とするハキリアリ、周囲の生物を集団で狩りつくして巣をもたずさすらうグンタイアリ、食虫植物のウツボカズラが掃除役兼用心棒として雇うシュミッツィーというアリなどがいます。

小松:アリは昆虫の中でも世界中に分布を広げ、たくましく生きています。アリというと、たいてい小さくて取るに足らない存在の代名詞のようにみなされ、漫画版『デビルマン』の1コマにも「これから多くの人間がアリのごとく死ぬ!」といったものがあるように、アリという生き物の尊厳そのものを踏みにじるような、あんまりな比喩があったりします。

アリが実は非常に強い生き物であるワケ

しかし、アリは実のところ非常に強い生き物だと言えるでしょう。ほかの生き物と比べても組織だった統率のとれた行動をとれる特性を持ち、彼らは、単独ではかなわない相手も容易に圧倒できます。

例えば、ほかの生物を食い殺しながら放浪し続ける恐ろしいグンタイアリなどは、まさに熱帯ジャングルの強者ですが、実際にはジャングルの生物多様性をつくっているとも言えます。

――それはどうしてでしょうか?

『NHK ダーウィンが来た!昆虫スゴすぎ クイズ図鑑』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

小松:グンタイアリの通った後の区画は、生き物が狩られたり逃げ出したりするため、一時的に生き物のいない区画になるのです。そのため相対的に弱い生き物が後でそこに入ってこられる。いわばいす取りゲームのように、競争力の強い種がいなくなったいすに、それまで押さえつけられていた競争力の弱い種が座りやすくなる。

グンタイアリはあくまでも自身の生存のための振る舞いをしているにすぎませんが、結果として、いわばジャングルの一区画の生物相を定期的にリセットして回るといったような役割を果たしているのです。

――なるほど。香川照之さんが「人間よ、昆虫に学べ」と叫んでいるのもあながち大げさではありませんね。自分たちを取り巻く生態系の謎や神秘を、もっと謙虚に昆虫たちから学ばないといけない気がします。

小松:生態系のピラミッドの中で、虫たちは通常いちばん下に位置しますが、それだけ基盤を担う存在とも言えるわけです。身の回りの自然と向き合いながら、私たち人間だけがこの地球に生きているわけではないことを実感していく機会を、少しでも持ってもらえたらいいなと思っています。

依田 弘作 編集者

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よだ こうさく / Kosaku Yoda

氷河期世代前期の雑食系編集者。これまで企画、編集した本に『下流中年』『沿線格差』『定年バカ』『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』など。

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