「働く時間減らせばOK」と考える経営者の大誤解 「生産性の向上」無視したままではジリ貧だ

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「短い時間で成果を出さなくてはならなくなれば、各自工夫して能力向上するのでは?」という意見もありますが、それはあまりにも楽観的な考えに思えます。多くの人は、「こうすれば評価され、こうすれば非難される」というインセンティブを作っただけで、そのとおりに動けるほど自律的ではありません。

生産性の向上という本来の「働き方改革」の目的を実現するのであれば、最初は社員やチームの能力開発を先行させなくてはなりません。「短い時間で同じ成果」を出せる「能力」を身に付けるしかないのです。

具体的には、暗黙知のままになっている仕事をマニュアル化や仕組み化などによって形式知化し、ノウハウ展開が可能となる素地作りを行う。そして、社員の不足する能力を見極めて目標設定を行い、その能力を獲得できるような仕事への教育的観点からアサインを行ったり、研修やトレーニングを実施したりするということです。

求められるは「人材育成」

能力開発をする前に時短を先行させてしまうと、能力開発に悪影響を与える可能性があります。まず、短時間で成果を出そうとすると、どうしても人材育成は後回しになります。また、仕事を教えるために共同作業したり同行させたりするなど、短期的な生産性の観点からはダブルコストになるようなことは敬遠されるようになります。

仕事上のすべての知識やスキルを形式知化するのは至難の業ですから、「見て学ぶ」ことは仕事において大変重要なのですが、それができなくなるのです。形式知化されたものはオンラインセミナー等でも学ぶことは可能ですが、そうでないものは引き継がれずに失われていく可能性があります。

残念ながら政府の進行プロセスは「時短」が先行しています。時短は時短で大事ですが、本来なら企業の能力開発を支援するために、例えば、教育研修費の損金算入の拡大や、ポテンシャル人材を採用した際の人件費への補助金を出すなど(制度として何が適当かはわかりません。あくまで例です)に最初に力を入れたほうがよかったのではないかと思います。

しかしそう言っていても、もう仕方ありません。企業はまず「働き方改革」は、現在のような「労働時間の削減」ではなく、「個々人の能力開発」が最重要課題であるということを理解することが重要です。そして、改革の順序を、「能力開発の実施」→「労働時間を短くする制度の導入」という順番に変更していくことが望まれます。

曽和 利光 人材研究所 社長

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そわ としみつ / Toshimitsu Sowa

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書等:『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社、共著)など。

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