日本人とフランス人「休み方」はこんなにも違う なぜフランス経済は休みだらけでも回るのか

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エマニュエル: まず経済的な観点からこの質問について考えてみることにしよう。フランスの国内総生産(GDP)は日本より低いとはいえ、上位に位置しているけれど、国民がこれほど多くの有給休暇を取る中で、フランスはどうやって経済を維持しているのか。日本人の中には、フランスはこの夏季のバカンスのせいで世界経済から大きな後れをとっていると考えている人がたくさんいるだろう。

確かにほかの経済大国と比べるとフランスは圧倒的に有給休暇が多く、年間5週間の休暇を取るのが一般的なので、これだけ競争が激しい世界で発展国として維持できるのは不思議だよね。

17世紀の有名な詩人のジャン・ド・ラ・フォンテーヌが書いた『セミとアリ』という有名な寓話があって、夏の間にアリが一生懸命働いてセミはのんきに太陽を浴びながら歌っているだけなんだけど、冬がくると食べ物の蓄えがまったくなかったセミはアリに助けを求めるという話。日本人にとっては、バカンスを山ほど取るフランス人はこのセミのようなイメージなのかもね。

世界に先駆けて観光産業が発展

くみ:同様の内容であるアリとキリギリスの話は日本でもイソップ物語などで有名だよね。怠けて遊んでばかりいると後で困るぞっていう戒めの話というイメージ。

エマニュエル:でも実際のところはそんな単純ではなく、現実の経済はもう少し複雑なんだ。1936年にフランスでは初めて「有給休暇」が制定されて、夏季に長期のバカンスを取るのもこの頃から始まった。その結果、海や太陽を求めて今までにない規模の大量の観光客の沿岸地域への移動がみられるようになった。

こうした大きな観光客の流れによって新たに観光という国の経済を支える産業が発展することになる。ホテルやキャンプ場、レストランにリゾート地でのスポーツセンター、美術館、特産物やお土産の販売などがたくさんの地域、とくに南フランスや大西洋岸地域などの沿岸地域だけでなく、アルプスやピレネーなどの山岳地帯も観光業のおかげで発展した。

このことが経済的にどう重要かというと、以前は大した産業もなかったようなさまざまな地域に新たな経済活動と雇用の創出ができたことが挙げられる。そして国内での観光産業を発展させることで他国よりも先駆けて観光産業の専門化に成功できた。

その例の1つが、世界規模で展開するホテルチェーンのアコーホテルズ。そしてさまざまなアクティビティやホテル、飲食施設が統合されたバカンス村を提供するクラブメッドなんかもその例だね。フレンチレストランが世界規模で発展するのも、長期のバカンスによって各地域の料理を知る機会が増えることがある。そのおかげでフランス料理の質が上がって発展し、その後海外でも評価をされることになるんだ。

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