それではこの喧嘩、日本が圧倒的に有利かというと、そうとも限らない。この問題に対する日本政府の説明が、7月第1週と第2週以降で微妙に変化していることにお気づきだろうか。
安倍首相の気持ちはわかるが「世界がどう見るか」がキモ
安倍晋三首相は7月3日、日本記者クラブ主催の党首討論会において、本件は元徴用工訴訟で対応を示さない韓国政府への事実上の対抗措置だという認識を示している。「1965年の日韓請求権協定で、互いに請求権を放棄している。約束を守らないうえでは、今までの優遇措置は取らない」とも語っている。
もちろん日韓関係には、それ以前から従軍慰安婦合意の一方的破棄、レーダー照射事件、水産物規制などの問題が積み重なっている。徴用工問題については、日本政府は日韓請求権協定に基づき、日韓と第三国による仲裁委員会の設置を5月に求めた。ところが韓国側は期限の6月18日になっても仲裁委員を任命せず、翌19日になって突然、日韓企業が資金を出し合って救済することを提案した。おいおい、それって財団方式じゃないか。2015年の日韓合意でできた慰安婦の「和解・癒し財団」を、勝手に解散してしまったのはどなたでしたっけ? 安倍首相がブチ切れた心情は、非常によく理解できる。
とはいうものの、韓国に対して恣意的な経済制裁を打ち出すのは拙いだろう。日本は今までそういうことをしない国だった。自由でリベラルな国際秩序の忠実なる担い手だった。特に今年はG20議長国であり、世界に率先して自由貿易の旗を振る立場。それが首脳会議終了直後に豹変したとなったら、周囲はどう見ることか。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙では、7月2日に政治学者ウォルター・ラッセル・ミードが「トランプ化する日本外交」という記事を寄稿している。「あの日本がIWC(国際捕鯨委員会)から脱退し、対韓輸出規制を始めるのだから、世の中は変わったもんだねえ」とのご趣旨であった。つくづくこの問題、日韓関係だけを見ていちゃいけない。第三国からどんな風に見られているかが、勝負のキモなのである。
ということで、政府の説明は翌週から「本件は輸出管理の一環です」というテクニカルなものに軌道修正した。政治家としては7月21日の参議院選挙も意識して、「韓国許すまじ」と気炎を上げたいところかもしれないが、それでは聞こえが悪いのである。
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