AIの導入で「美術館」がこんなにも変わる理由 意外と多い絵画の「贋作流通」はAIで防げるか

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メトロポリタン美術館はマサチューセッツ工科大学とマイクロソフトと連携し、所蔵作品の47万点におよぶ画像データをすでに「機械学習」に活用している。同館でこのプロジェクトに携わるマリア・ケスラーは、「AIに望んでいるのは、新しいナラティブの創出」だという。

AIは画像認識のプロセスにおいて、美術史の定説などを考慮しない。そのため、これまで美術史家やキュレーターが思いもよらなかったような関連性を、作品の中に見出すことができる。こうしたAIによる発見を、新たな角度からの展覧会企画などにつなげていくことに期待が寄せられている。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)はグーグルと共同で、6万5000点を超える所蔵作品の画像データと、3万枚を超える過去の展覧会の会場写真をAIを用いて解析し、どの作品が、どの展覧会に展示されたのか紐付ける作業を進めている(画像:MoMA)

贋作の検出

画像認識の活用法としてもうひとつ注目されているのは、作品の真贋判定だ。美術館での利用と同様、「専門家の意見」というバイアスが存在しない状態で、視覚情報を解析できるのがAIの強みである。

Artendex社のAIはアーティストの筆致を学習し、真贋判定を行う。それぞれ絵のうち片方のみが本物(画像:Courtesy of Artendex)

この分野をリードするArtendex社は、AIにマティスやピカソといったアーティストの筆致を学習させ、機械的に真贋判定を行うエンジンの開発をしている。判定精度は、すでに約8割まで到達しているという。

アートマーケットでは、贋作の流通や作者を誤るリスクが常に存在し、控えめに見積もっても市場にある15〜20パーセントの作品がそうしたケースに当たるという。AIによる真贋判定はこれからマーケットに大きな影響を与えると予想される分野のひとつである。

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