AIの導入で「美術館」がこんなにも変わる理由 意外と多い絵画の「贋作流通」はAIで防げるか

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■来館者のエクスペリエンス向上に活用

AIは美術館のアクセシビリティの向上にも活用されている。来場者のデモグラフィック、来場者の行動、ウェブサイトの利用パターンといったデータを収集・分析し、展示やサービスの改善を行おうというものだ。

ニューヨークにあるニュー・ミュージアムが進める、インキュベータープログラム「New Inc」では、美術館の質向上に関するプロジェクトが複数進行している。プログラムを統括するステファニー・ペレラは、「美術館の多くは、来場者やニーズに関してほぼ把握してない」という。「AI導入にはコストがかかり、小規模美術館には無縁なものという考え方が依然根強いが、規模の小さい施設でもAIの活用によるベネフィットが大きいことを周知していきたい」と語る。

■美術館におけるAI活用の課題

AIを活用して、いままでよりも高次の視点から、美術史の再考や、コレクション管理、展示企画、美術館運営を進めていこうとするには、まだまだデータ量が圧倒的に不足しているという。とくに美術史をとらえ直そうとするならば、美術館同士の連携は不可欠で、膨大に存在するプライベートコレクションのデータ収集も大きな課題となる。これらを乗り越えていくために、業界内での議論やスタンダードの制定などを始めていく必要がある。

さらに「AI開発に携わる人々の多様性確保」も強調された。現在ニューヨークの美術館関係者は86パーセントが白人であるという。従来の展示やコレクションへのアプローチには、否が応にも人種のバイアスがかかっており、それは必ずしも公共の関心に即したものではなかった。これからAIを活用して美術館を開かれた場にしていくためには、その技術に携わる者の多様性は非常に重要で、「New Inc」ではプロジェクトメンバーのダイバーシティー確保に尽力しているという。

AIが生成したアートの作者は誰か

サミットでは、創作活動の現場におけるAI利用の最新状況についても紹介された。AIの画像、音声認識といった能力を活用したものから、AIによって蓄積された言語や知識を利用するものまで様々な表現が登場しているが、もっとも注目が集まっているのは、AIそのものによる表現だ。

サミットには、AIに創作活動を行わせるアーティスト、ロビー・バラットも登壇。彼が高校生だったとき、オープンソースとして公開したAIのコードを、Obviousというフランスのアーティストグループが利用、《Edmond De Belamy(エドモンド・ベラミーの肖像)》という絵を作成した。この作品は、昨年、世界で初めてAIが描いた絵画としてクリスティーズのオークションに出品され、43万2500ドル(約4800万円)の値がつき話題となった。

バラットのコードから作成された《エドモンド・ベラミーの肖像》。第三者が自分のコードを利用して、絵を作成・販売することは想定外だった。当時高校生だったバラットは「作者の問題」については考慮していなかったという ©Christie’s Images Limited 2018
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