AIの導入で「美術館」がこんなにも変わる理由 意外と多い絵画の「贋作流通」はAIで防げるか

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バラットが取り組んでいる最新のプロジェクトにおいては、AIが蓄積された絵画のデータをもとにイメージを自動生成し、できあがってきたイメージの一部をバラットが意図的に削除、AIに塗り直させるという「修正のトレーニング」を行っているという。創作過程でバラットはAIに深く関わるが、視覚的な最終成果物を生み出すのはAIだ。

アルゴリズムを利用して生成される作品は「ジェネレイティブアート」と呼ばれ、その存在自体は新しくない。これまではアルゴリズムの調整に多くの時間を費やし、最終的な作品の見た目をコントロールする人物が「作者」とされることが通例だった。バラットが行うような創作プロセスにおいても、同じ考え方ができるのかという問題もサミットでは提示された。

ここには版権の問題も絡んでくる。イギリス、アイルランド、インドなどでは、すでにAIがつくり出したものに版権を付与する法が定められており、日本でもこの流れに続く議論が始まっている。アメリカの法律では、この点についてまだ曖昧で、今後AIによるアート作品を考えるうえで、「作者は誰か」の議論は避けて通れないという。

バラット(右)は現在スタンフォード大学の研究所に勤めるかたわら、AIによる創作プロジェクトを複数進めている(写真:美術手帖)

伝統的な美術史の終焉、新しい物語への渇望

サミットの中で、今年4月までグッゲンハイム美術館で開催されていたヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944)の回顧展が話題にのぼった。クリントは、スウェーデンで活動した女性画家。会期前の一般における知名度はゼロに等しかった。

しかしこの展覧会は、グッゲンハイム美術館創立以来最高となる来場者数60万人を動員。カタログの売り上げは3万部を超え、こちらも新記録を樹立。さらに美術館会員も34パーセント増加。モダンアートの展覧会としてトップ10に入るという、驚くべき快挙を遂げた。

クリントの例は、従来の美術史の枠外にも、多くの人の関心を集めるアーティストは存在することを証明したように見える。

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