なぜ政府も野党も最低賃金を無理に上げるのか 「年5%賃上げ10年連続」はやるべきではない

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政府の方針よりさらにひどいのが立憲民主党の「5年以内に全国一律で最低賃金を1300円に引き上げる」という参院選の柱となる公約です。政府との大きな違いは、「1300円」という金額もさることながら、「全国一律」という条件が現実離れしているという点です。

立憲民主党の全国一律1300円が現実離れしているワケ

実のところ、最低賃金が全国平均の874円に達しているのは、47都道府県のうち7都府県しかありません。東京都(全国1位・985円)や神奈川県(2位・983円)、大阪府(3位・936円)など上位の都府県が、全国平均の値を大きく引き上げているのです。

そのため、47都道府県で中央値に当たる石川県(24位・806円)でみると、最低賃金が5年で1300円に達するには、毎年10%超の引き上げが必要な計算になります。その引き上げ率が異常であるのは、経営側から見ても労働者側から見ても明らかなことでしょう。

共産党も参院選の公約の一つとして、最低賃金については「ただちに全国一律で1000円に引き上げ、すみやかに1500円を目指す」という考えを示していますが、野党の幹部の方々にお願いしたいのは、韓国で今起こっている現実を直視して最低賃金の取り扱いを決めてほしいということです。

韓国では文在寅政権が所得主導の経済成長を掲げたうえで、最低賃金を1万ウォン(約930円)に引き上げるという公約の実現に向けて突き進んでいます。最低賃金を2017年に16.4%、2018年にも10.9%引き上げた挙げ句の果てに、中小零細企業の倒産・廃業・雇用削減が相次ぎ、失業率が悪化の傾向を鮮明にしています。足元の2019年4月の失業率は4.4%となり、19年ぶりに過去最悪の水準を記録しているのです。

とくに若年層(15歳~29歳)の雇用の減少が著しく、若年層の失業率は11.5%と2桁の大台に達しています。それに加えて、解雇される雇用形態で圧倒的に多いのは、非正規雇用に該当する人々です。経済的に弱い人々にしわ寄せが片寄るという現象は、左派政権が目指したものとは真逆の結果をもたらしているというわけです。

私は政府が目論む「最低賃金の5%引き上げ」にすら懸念を表明してるわけですが、立憲民主党の公約では日本経済は地方を中心に壊滅的な打撃を受けることになるのではないでしょうか。同党の公約は韓国の大失政を無視しているとしか思えず、経済政策を立案する能力が皆無だと見事に露呈してしまった事例であるといえるでしょう。

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