実のところ、2ページで掲載した「OECD加盟諸国の労働生産性」は、日本の生産性を考えるうえで無視することができない欠陥を持っています。〔労働生産性 = 国内の生産量(付加価値額)÷ 労働投入量(労働者数×労働時間)〕という数式で計算されているため、日本企業の生産性が海外進出によって飛躍的に向上しているにもかかわらず、国内の生産性が上昇するという結果にはまったく結び付いていないのです。
日本の製造業ではかつて、国内の工場で自動車や家電などを生産し、それらを海外に輸出して収益を伸ばすことが、お決まりの成長モデルとなっていました。ところが今では、輸出から輸入を差し引いた貿易黒字は、経済のグローバル化に伴って減少の傾向をたどってきています。財務省の国際収支統計によれば、2018年の貿易黒字は1兆1877億円にまで減少し、2000年の12兆7000億円と比べて10分の1以下にまで縮小しています。
それに代わって、日本の企業が海外の消費地に進出する動きは、製造業だけでなく小売業やサービス業にまで広がってきています。大企業や中小企業の区別なく、収益性や生産性が高い企業ほど、アメリカ、中国、東南アジアなどに工場や拠点を持つようになっているのです。
その結果、2018年の経常黒字は19兆932億円となり、平成の30年間で黒字額が2倍超に膨らんでいます。その中で、日本企業の海外での稼ぎを示す直接投資収益は、2018年に10兆308億円(第1次所得収支の約半分を占める)と過去最大になっているというわけです。
「国際比較のワナ」に気をつけよ
現状の国際比較の方法では、グローバルに事業を展開する企業が海外で高い生産性を達成したとしても、それが国内の生産性には算入されない仕組みになっています。それは裏を返せば、生産性の高い企業が国内での生産を縮小し、海外での生産を積極的に進めれば進めるほど、日本の生産性は私たちが実感している以上に低下していくということを意味しています。
経済統計の背後に潜んでいる問題点を考慮せず、単純に国際比較してしまうという状況を私は「国際比較のワナ」と名付けていますが、労働生産性に関しても国際比較のランキングだけを見ていては、日本企業の正味の生産性が着実に上がっているという事実を読み取ることができません。
今後もグローバルに活躍する企業が増えていく流れの中で、それと反比例するように国内の生産性が低下していく関係にあるということを鑑みると、日本の生産性が国際ランキングで示されているほど悪くはないと理解する必要があるでしょう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら