なぜ政府も野党も最低賃金を無理に上げるのか 「年5%賃上げ10年連続」はやるべきではない

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生産性がいっそう低下する圧力がかかっている環境下で、最低賃金を5%ずつ10年続けて引き上げようとすれば、現在の最低賃金(全国平均で時給874円)は3年目に1000円を突破し、5年目に1100円、10年目に1400円を超えることになります。

そうなれば、地方でアルバイトやパートで成り立っている零細企業の大半は、5年もしないうちに倒産か廃業に追い込まれる可能性が高まります。確かに、最低賃金の引き上げに備えて、自動化の投資などで生産性を上げる体力がある企業は生き残ることができますが、大半の零細企業は淘汰されると覚悟する必要があるでしょう。

最低賃金の引き上げを目的化する弊害として、従業員を解雇しなければならない、または、自らが事業を止めなければならない経営者が増えていくことが予想されます。そのときに失業に追い込まれるのは、低賃金だからこそ仕事を得られる、特別なスキルを持たない人々です。結局のところ、最低賃金の無理な引き上げは、最も社会が助けなければならない人々をさらなる窮地に陥らせてしまうのです。実際には、そういった現実が社会問題としてクローズアップされるに従い、政府は3年以内に最低賃金の引き上げ幅を縮小、あるいは凍結していくことになるのではないでしょうか。

原因と結果を間違えているアベノミクスと同じ轍を踏む

最低賃金を5%引き上げるべきだと主張する識者の本質的な誤りというのは、アベノミクスの犯した失敗と同じように、「原因」と「結果」を取り違えているところにあります。どういうことかというと、物事の本質や因果関係から判断すれば、「インフレ経済になる」ことによって、「国民生活がよくなる」のではありません。「国民生活がよくなる」結果として、「物価が上がる」というものでなければならないのです。

ですから、2012年12月の衆議院選挙で自民党が大勝した直後に、複数の週刊誌から「アベノミクスは正しいのか?」という取材を受けたとき、私が一貫して何を申し上げたかは今でも鮮明に覚えています。「原因と結果を取り違えているので、悪いインフレになり、実質賃金は不況期並みに下落するだろう。その結果、国民の生活は苦しくなり、消費は停滞するだろう」と強く訴えていたのです。

現実に、2013年以降の実質賃金は、輸入インフレと消費増税によって大幅に下落し、2013年~2015年の実質賃金の下落幅はリーマンショック期に匹敵するほどになりました(私の試算では、2013~2015年の実質賃金〔2000年=100で計算〕の下落幅4.2ポイント減のうち、輸入インフレの影響は2.5ポイント減、消費増税の影響は1.7ポイント減です)。その影響を受けて統計開始以来、個人消費は初めて2014年~2016年に3年連続で減少するという深刻な事態が起こったのです。(『実質賃金下落の本質は国民への「インフレ税」だ』(3月30日)参照)

「日本の名目賃金と実質賃金の推移」(左)、「実質賃金と個人消費の推移」(右)
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