就職3日で自殺を図った男が見た「絶望の限界」 35歳元ひきこもり男性が長年抱えてきた葛藤

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自分の状況を客観的に眺め、薬を抜いて「素の人間」に立ち返ろうと彼は決めた。

「自己否定」をしない訓練

「薬を抜くために2週間、入院しました。最初は薬の離脱症状に苦しんだけど、しばらくたって外に出たら、風を感じたんです。抗うつ剤は感覚を鈍らせるので、風など感じたことがなかった。そこからリハビリが始まりました」

いい機会だからとネットで売っている1円の中古本を買い込んで読みあさった。大学時代に学んだ心理学も、もう1度、勉強し直した。自分のことが少しずつわかっていった。そこでキーワードになったのが「自己肯定」だ。

自己肯定感には、自然に持っているベースとなるものと、社会的に培われるものがある。僕にはベースとなる肯定感がない。それは子どもの頃、のびのび安心して暮らせたか、自分の気持ちを受け止めてくれる人がいたか、にかかっている。それがあれば、自分を肯定できるし人も肯定できる」

ベースとなる肯定感がないのに、社会的肯定感を積み重ねても砂上の楼閣。東大生だろうが成功者だろうが、自己肯定感の低い人間は大勢いる。ベースとなる肯定感がないからだろうと彼は言う。

自己肯定とか自己否定とか、よく聞く言葉ではあるが、人がなぜそこに固執するのかよくわからなかった。ただ、石崎さんの話を聞いて、生きるベースとなるのは、「自分がここにいていい」と思える気持ちだとわかった。それがあれば自分を受け入れることができる。「私は私だもん」と思える気持ちでもある。

それがなく、「自分はダメだ」「生きている価値がない」とつねに自分を否定するのは非常につらいことだろう。そんなダメな自分を周りはどう見ているのかと考えたら、外に出ることすらできなくなる。

石崎さんは、ベースがないから自己肯定は難しいと感じた。だから否定しないエクササイズを始めたという。

「僕はひと言発するたびに、こんなことを言う自分はダメだ、と否定していた。だから自分を否定しない作業を5分してみる。否定しそうになると、いや、そう思わなくていいんだとマイナスからゼロに戻す。毎日少しずつ時間を延ばす。否定さえしなければなんとかなります」

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