「私は天才肌ではありません。大学には中学校と高校1年生までの(勉強の)貯金で受かったと思っています。高2と高3では部活に打ち込んだり、成績が下がったりしました。でも、基礎ができていたので、本格的に受験勉強を始めたときに(初歩に)戻らなくても大丈夫でした。頑張ったらできる自信もありました」
日系メーカーで働く父親の転勤で、アメリカやヨーロッパに住んだ経験もある井上さん。幼稚園と小学校までは両親のしつけが厳しく、よく勉強させられたと振り返る。しかし、中学校に上がってからは急に干渉されなくなり、試験前なのに母親が買い物に誘ってくるような親子関係になった。欧米風の教育である。
「中学校時代はわれながらストイックに勉強していましたね。試験前は自主的にテレビを見なくなり、各教科を潰していきました。私は負けず嫌いなのです。天才肌の弟(後に医学部に合格)に悔しい思いをしていたかもしれません。いい成績を取って両親や祖父母に喜んでもらいたい気持ちも強かったな。褒められるのが好きなので」
負けず嫌いになった理由のひとつとして、「他人に話したことはほとんどないけれど」と前置きしながら、小中学校時代に軽いいじめに遭ったことを明かしてくれた。
「私は小さい頃からすごくしっかりしていて、教室で先生から『この問題、わかる人?』と聞かれたら、どんどん手を上げちゃっていました。人前でしゃべるのも平気です。小学校の高学年で過ごしたアメリカの現地校ではすごく楽しかったけれど、日本の学校や日本人学校では目立っちゃっていじめられたんですね。それもあって人一倍勉強を頑張ったのかもしれません。登校拒否になったら負けだと思っていたので、どの学校でも皆勤賞です。家族が温かくてよかったから、ラッキーだったとも思います」
家族という絶対的な基盤と生来のエネルギッシュさによって、逆境をバネに変え、モチベーションを管理する方法を見いだしたのだ。
灘校生たちには負けたくない!
「やる気を無理矢理にでも作り出すのは得意になりました。東大受験のときに宿泊したホテルは、たまたま灘校生御用達だったらしく、ママ同伴で来ているお坊ちゃんたちもいました。『こいつらには絶対負けない!』と励みになりましたね」
どうせならトップに、という明快な理由で合格した東京大学。実際に入って10年近くをこの最高学府で過ごした感想を知りたい。
「東京という場所と東大という環境には、面白い人やモノが集まっていると感じました。世界でトップクラスの研究者が身近にいる割合も高いし、海外でもある程度は認知されています。情報においても得ですね。学術的なものからゆるいところまで、多種多様な情報にいち早く接することができます。(東大卒であることの)デメリットを感じたら負け!だとは思っていますが、高校時代の男友達からは『もともとお前を知っていなかったら、(経歴を見ただけで)絶対に引く』と言われています」
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