東大卒の人と向かい合うとかすかな引け目を感じてしまう。
20年も前のことになるけれど、僕は高校2年生の終わりまで東大志望だった。試験範囲の広さ(社会2科目!)に恐れをなし、途中で挫折して志望を変え、一浪の末に一橋大学に入った。東京郊外でのアットホームな大学生活をそれなりに楽しんだが、「東大」ブランドへのあこがれとおそれはいまだに体に残っている。
外資系のIT関連企業で働く井上麻紀さん(仮名、28歳)は生粋の東大人である。学部、修士、博士とすべて東大に在籍し、工学系の学位を取った。しかも、宝塚の男役みたいな凛々しい立ち姿。まさにエリート美女だ。緊張しながらメールで取材依頼をすると、「『容姿端麗』というところが明らかに要件を満たさないので、誰かご紹介できればと考えながらメールを読んでいたのですが、私にも声をかけてくださっているのですね(笑)」という謙虚で明るい快諾が返ってきた。
取材がてらの食事に誘うと、鍋をご所望。予算の範囲で店を探し、「無門 四谷」(四谷3丁目)でリーズナブルなふぐちりを一緒に食べることにした。仕事話の前に、受験についてぜひ聞きたい。
井上さんは関西地方にある県立進学校の出身。優秀者の大半は京大・大阪大・神戸大もしくは関西圏の医学部に進学する環境で、学年で3人という東大合格者になった。
「なぜ東大か、ですか? 私は家族が大好きで、実家を離れるのは嫌だったのです。一人暮らしで洗濯するのも面倒だし……。でも、どうせならトップ校に行きたいと思いました。昔の予備校CMで、『大学なんて関係ないと東大に入ってから言ってみたい』というコピーがありましたよね? そのとおりだと思いました」
確かにそのとおりなのだけど、実現できる人は限られている。井上さんはガリ勉タイプにも見えない。高校時代は国語が好きで弁護士にも興味があったが、一方で物理も得意だったという。文理のどちらに進むべきか迷った末、先生から「今はまず理系にしておけば、後からでも軌道修正できる」と助言され、理系の道を選んだ。井上さん、天才なのか?
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