声優に憧れる人が知らない決して甘くない現実 フリーザ声優が教える声優に求められる資質

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生の俳優だと、例えばショーン・コネリーが「007」のジェームズ・ボンドで人気を博したものの、イメージが固定化されてほかの役ができなくなるからと降板したことがあるように、「当たり役」のせいで以降似たような役しか依頼がこなくなって、それが飽きられたら仕事が減ったとか、両刃の剣のような部分もありますが、声優の場合はそのへんは全然違います。

声優は同じ役を何十年も演じられる

まず、そのキャラクターを10年、20年と演じることができます。外見の変化ほどに声質は変わりませんから、いつか限界がくるにしても、かなり長い期間続けることができます。なにしろ、作品によってはキャラが全然年をとりませんから。これが生の役者だったら、役者に合わせて設定やストーリーを変えなければいけない制約が出てしまいます。

また、イメージが固定化されるというのも実写ほどではありません。声優は作品内では姿をもちませんから、ありとあらゆる役を演じることができます。

私でいえば、『タッチ』の西村勇や『キャプテン』の近藤茂一などの球児や、『伊賀野カバ丸』の伊賀野影丸、『あしたのジョー2』のカーロス・リベラをやりつつ、トッポ・ジージョ(『トッポ・ジージョ』)、ぽろり(「にこにこ、ぷん」)のような、ネズミの男の子などさまざま。

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みなさんによく知られているのが、ばいきんまん(『それいけ!アンパンマン』)とフリーザ(『ドラゴンボールZ』)なので、最近ではラスボス的なキャラ(フリーザははじめはラスボスではなかったのですが)や、人間以外のキャラ(最近では「人外」というそうですが)が多くて、久しぶりに人間の役をやると、「中尾さん、人間役ですよ」とわざわざ言われたりなんかしてしまいます。

声優とキャラクターというのは、絶対的にイコールかと言うと、そうでもない不思議な関係です。キャラは永久に生き続けますから、どこかでキャストは変わります。また、声優のファンの方々にしても、キャラクターが好きという部分がかなりの割合でミックスされていることでしょう。

イベントなんかではキャラの決めゼリフをお願いしますと言われますが、一方で、それ以外では公でキャラのセリフを言ったらいけないと言われることもあります。海外のアニメなんかではとくに厳しい制限があります。

キャラがまずあって、というのはわかりますが、私がそれを演じていて、世間の人からほとんどイコールと思われていても、私のものではない。なんか妙な感覚があります。

中尾 隆聖 声優

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なかお りゅうせい / Ryusei Nakao

東京都生まれ。3歳で児童劇団に入団。5歳で文化放送のラジオドラマ『フクちゃん』のキヨちゃん役でデビュー。第25回日本映画批評家大賞“アニメ部門最優秀声優賞”、第11回声優アワード“富山敬賞”を受賞。1992年より関俊彦とともに劇団「ドラマティック・カンパニー」を主宰する。

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