コメディアン大統領はウクライナを救えるのか

ゼレンスキー氏のポピュリズムと政治課題

東部ルガンスクでウクライナ軍の前線を視察するゼレンスキー氏(写真:PRESIDENT OF UKRAINE Official website)

ではゼレンスキーはロシアに融和的だろうか。ゼレンスキーは「急がば回れ」の戦略を取るように思う。ともかく東部での戦闘を収束させる。当面はウクライナ国内の経済を回復、発展させることに集中し、国民の生活レベルを向上させる。今、ウクライナの成長産業はITだ。ゼレンスキーはウクライナをイスラエルのようなIT大国にして、エストニアのような電子政府を実現したい意向も示している。

財閥支配でない民主的なウクライナを築く。それによって、親ロシア派に支配されるドンバスやロシアに併合されたクリミアの住民に対して、ウクライナに戻るほうがはるかに利益になることを示し、ウクライナになびかせようという戦略を取っているように思える。

ゼレンスキーはロシアを侵略者と呼び、プーチンを敵だともしている。一方で、東部の和平のためにロシアと交渉するとも述べている。ロシアとどのように交渉するのか、交渉しないのか。大統領府長官のバグダノフはロシアとの関係について、国民投票にかけると述べている。何を意味するのか、正直分からない。曖昧な問いで国民投票をしても聞かれるほうが迷惑だろう。

もしかしたら、「ミンスク合意の履行」を国民投票にかけるのかもしれない。ドイツ、フランスを仲介者として結ばれたミンスク合意では、停戦とともに、東部の親ロシア派支配地域に特別な地位を与え、テロリストと呼んできた親ロシア派に恩赦を与えることを定めている。

このミンスク合意は国連の安全保障理事会でも決議され、国際法となっているが、ウクライナ政権にとっては、親ロシア派への譲歩を意味しており、履行は政治的に難しい。ロシアは、ウクライナがミンスク合意を履行するなら関係正常化に応じる、としている。「ミンスク合意」を国民投票にかけるのであれば、一つの政治決断になるだろう。

ゼレンスキーの成功はプーチンを脅かす

ゼレンスキー政権はポロシェンコ政権よりもロシアに対して融和的だろうか。敵対的なレトリックが少なくなるかもしれない。ただロシアのプーチン政権にとってポロシェンコ政権のほうが手の内がわかり、予想可能で対処しやすいという面がある。

財閥支配のままではウクライナの経済成長もありえない。敵対しているロシアに百万を超えるウクライナ人が出稼ぎに行っている。ウクライナの貿易相手国で輸出入とも第1位はロシアである。政治的には対立しても経済ではいまだに深く結びついているのが、ウクライナとロシアの関係だ。

しかし、もしもゼレンスキーの「急がば回れ」の戦略が成功し、経済の離陸を実現したらどうなるだろう。ウクライナが財閥支配を脱却してロシアよりもビジネス環境の面で上回り、ITのスタートアップもしやすくなったら、どうなるだろう。しかも民主的な政権交代が可能な政治体制であることは確かだ。政治的アウトサイダーのゼレンスキーが大統領として成功することは、ロシアに別の方向性の実例を示すことになる。

ロシアのテレビは、ウクライナ大統領選挙を詳報した。ゼレンスキーとポロシェンコの公開討論会や、議会に歩いて向かうゼレンスキーの就任式はテレビで生中継された。まったくの政治のアウトサイダーが大統領となる隣国の姿を直接見たロシア国民はどのように思っただろうか。ゼレンスキーの成功はロシア国内での脱プーチンの動きを強める可能性もある。

クレムリンは6月1日からウクライナへの石油など資源の輸出を禁じる制裁措置を取る。クレムリンはコメディアン・ゼレンスキーの成功を恐れているかもしれない。果たしてゼレンスキーは困難な決断もできる真のステーツマンか、それとも大統領を演じているにすぎないのか、ウクライナの運命がかかっている。

政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 実践!伝わる英語トレーニング
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 野口悠紀雄「経済最前線の先を見る」
  • 最新の週刊東洋経済
トレンドライブラリーAD
人気の動画
ホンダ「4代目フィット」がイマイチ売れていない理由
ホンダ「4代目フィット」がイマイチ売れていない理由
京セラのガラパゴススマホ「トルク」がたどり着いた境地
京セラのガラパゴススマホ「トルク」がたどり着いた境地
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「半導体パニック」自動車産業に与える巨大衝撃
「半導体パニック」自動車産業に与える巨大衝撃
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
これが世界のビジネス常識<br>会社とジェンダー

「ジェンダーギャップ指数ランキング2021」で日本は120位という結果に。先進7カ国中で最下位かつ、女性の社会的地位が低いとされるアフリカ諸国よりも下です。根強く残る男女格差の解消は、日本経済が再び競争力を取り戻すために必須の条件です。

東洋経済education×ICT