コメディアン大統領はウクライナを救えるのか ゼレンスキー氏のポピュリズムと政治課題

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しかし果たしてドラマの中のようにゼレンスキーは財閥との戦いを進めるのだろうか。ゼレンスキー自身も財閥との結び付きが指摘されているのだ。

「ポロシェンコさん、あなたはいつから財閥になったのだ。議員の時にチョコレート工場を手に入れているではないか。財閥が大統領になるべきでない」

公開討論でゼレンスキーは自らが財閥でもあるポロシェンコを非難した。

しかしゼレンスキー自身も財閥コロモイスキーとの結びつきが指摘されている。ゼレンスキーの主要な番組である『ベチェルヌィ・クバルタル』も『国民のしもべ』もコロモイスキーが所有するテレビチャンネルの1+1で放送された。大統領選挙期間中にもかかわらず、ゼレンスキーが出演する娯楽番組やドラマが放送され、ほかの陣営からは事実上の選挙広告だとの非難の声が上がった。

こうした非難に対してゼレンスキーは公開討論の中で「ピンチューク、フェルタシュ、アフメトフ、コロモイスキー、そしてあなた、ポロシェンコ、この5人の財閥がウクライナのテレビを支配している」とテレビ業界における財閥支配の現状を指摘した。テレビで仕事するには財閥と契約関係を結ばざるを得ない、と反論する。

コロモイスキーの傀儡との疑惑が浮上

しかし、ゼレンスキーが大統領府長官に任命したのはコロモイスキーの弁護士だったアンドレイ・バグダノフ。ポロシェンコと対立してイスラエルに亡命していたコロモイスキーは大統領就任式の直前にウクライナに戻っている。ウクライナの報道ではバグダノフの任命はコロモイスキーが強く要求したとも伝えられている。

コロモイスキーは英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに対して、「ウクライナはIMFの返済計画を拒否し債務不履行を宣言すべきだ」と述べている。コロモイスキーの影響力について、欧米でも不安が強まっている。「ゼレンスキーは財閥の操り人形ではないか」、この疑問に新大統領は答えなければならない。

不思議なことにゼレンスキーに大統領への道を開いた『国民のしもべ』では、ロシアはウクライナを脅かす影の存在として示唆されるものの、物語の中では何も出てこない。就任演説でゼレンスキーはロシアを一言も名指ししなかった。ロシアを敵として激しく非難し、ロシアを悪とすることで政権の基盤を固めようとしたポロシェンコとは対照的だ。

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