コメディアン大統領はウクライナを救えるのか

ゼレンスキー氏のポピュリズムと政治課題

ドラマが現実になってしまった(写真:PRESIDENT OF UKRAINE Official website)

ゼレンスキーに大統領への道を開いたのは、2015年に始まった人気テレビドラマシリーズ『国民のしもべ』だろう。ゼレンスキー主演、クバルタル95の主要メンバー総出演で制作もクバルタル95だ。クリボイ・ログ出身者で作るコメディグループ・クバルタル95は、2003年КВНと別れて自立した。そしてウクライナのテレビで自らの番組制作を始めた。

人気のコメディショーは毎週金曜日に放送される『ベチェルヌィ・クバルタル』という番組で、コメディあり、歌あり、踊りあり。私の世代でいえば「ザ・ドリフターズ」の『8時だよ!全員集合』を思い出させる。しかし番組はかなり政治的だ。売りは政治家や財閥を揶揄するコメディである。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とヴィクトル・ヤヌコービッチ元ウクライナ大統領の電話、ポロシェンコとプーチンの休暇、イーホル・コロモイスキーとリナト・アフメトフ(2人ともウクライナの財閥)のニュースキャスターなど、時節の話題を織り込みながら皮肉っていく。私が見た中では、コロモイスキーとアフメトフのニュースキャスターが傑作だ。

クバルタル95は日本でいえば吉本興業か、ジャニーズかという感じ。さまざまなタレントを抱える大プロダクションだ。ゼレンスキーはプロダクションの共同経営者であるとともに、コメディグループ・クバルタル95の時代と同様に、制作部門のリーダーでもある。ウクライナのテレビ界、ショービジネスにおいて最も成功したテレビマンだ。

欧米に対してシニカルな『国民のしもべ』

運命の分かれ道となったのが2015年に始まったテレビドラマ『国民のしもべ』だ。ロシア語のドラマである。ドラマは2015年、2017年、そして2019年と3シリーズが放送された。このドラマの影の主役はウクライナを操る財閥だ。3人の財閥がキエフの夜景を見ながら、大統領選挙の結果がどうなっても3人でウクライナを操ろう、と話す場面から始まる。

平凡な教師ゴロボロチコがウクライナの現状への不満をぶちまける様子を生徒がスマートフォンで盗み撮りし、それがSNSに投稿されて大人気となる。ついに大統領に立候補させられて、当選。素人大統領とその同級生からなる仲間たちが、財閥や既存の政治家、腐敗したシステムとの悪戦苦闘を繰り広げていくというストーリーだ。

荒唐無稽の物語ともいえるが、『国民のしもべ』こそが大統領への道を開いた作品であり、また、脚本家でこのドラマのシナリオ・ライターのユーリー・コスチュクは大統領府副長官に任命された。

このドラマの分析は重要だ。『国民のしもべ』には3つのメッセージが込められている。1つは財閥支配からの脱却、2つ目は財閥ではなく普通の人に奉仕する普通の人としての大統領、3つ目は自立するウクライナである。注目すべきは、欧米に対するシニカルな描き方だ。ポロシェンコはこのドラマについて「反欧米的で、嫌いだ」と述べているが、確かにその要素はある。IMF(国際通貨基金)にしてもG7にしても、ウクライナを支援するのは自らの利益のためだ、と突き放して描かれている。

就任演説でゼレンスキーは「我々はヨーロッパへの道を選んだ。しかしヨーロッパはどこか遠くにあるのではない。この(頭)中にある。この中にヨーロッパが生まれた時、ここもヨーロッパになる」と述べている。ウクライナ国民によるウクライナの自立が『国民のしもべ』に込められた重要なメッセージだ。連邦崩壊後の独立ウクライナの中で苦闘しながらビジネスを築き上げたゼレンスキーの世代の思いが込められていると感じる。

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