「稲盛和夫」には日本人が失いそうな精神がある ど真剣に働き誰にも負けない努力をする尊さ

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実は出版社から「京セラ創業60周年に合わせて書かないか」と提案された当初、「存命中の人は書かない」と言って一度断りました。ただ自分で調べてみると、この人を語り部に伝えるべきことがあるとわかった。とくに大学生やこれから起業する若い人に知ってもらいたい。そう思って書きました。

北 康利(きたやすとし)/1960年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。2008年から評伝作家業に専念。『白洲次郎 占領を背負った男』で第14回山本七平賞。ほかに『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』など。(撮影:梅谷秀司)

稲盛氏に限らず誇れる先輩、先人は、日本の「簿外資産」です。土地やお金のような貸借対照表・損益計算書に載るものではなく、数字で表せない価値こそが本当は大事。世界経済が不安定になると、スイスフランと並んで円が買われますよね。

財務省が「財政赤字で国家経済は破綻寸前」と言うのは損益計算書の世界ですが、それとは別に、数字に表れない日本の価値に信頼が寄せられているのです。そしてこういう簿外資産、つまり先人への謙虚な思いが、日本社会のガバナンスにも結び付きます。

──謙虚に学び続けることが、社会の自治につながる。

今は経営者であれ政治家であれ、これまで偉いと思われていた人たちを引きずり下ろす動きばかり。成功者が失墜するのって、成功していない人間からすると面白いんです。でも嫉妬に駆られて他人の足を引っ張るのはいちばん醜い心理。今の日本に圧倒的に欠けているのは、「この人みたいになろう」といった尊敬の気持ちと志です。

体調が優れなくても「約束だから」

──87歳となり、あまり人前に出なくなった稲盛氏への長時間インタビューは貴重ですね。

隔月のペースで5回ほどインタビューしました。体調が優れないときでも「約束だから」と来てくれて、2時間、3時間に及ぶこともありました。しかも書き上げたものを10回に分けて、読み合わせしてくれています。今回、日本の書籍としては初めて日中台韓4カ国で一挙刊行したのですが、稲盛氏から「国が違うのに、本当に同時?」という緻密な指摘をもらい、同時「期」発刊とうたっています(笑)。

あるとき、稲盛氏が「実家で仏壇の下を掃除したら出てきた」と言って、手紙の束を渡してくれました。起業を前に悩みに悩んだときに親に宛てて書いた、貴重な未公開資料です。京セラ関係者は「新しい資料はもう存在しない」と思っていましたから、みんな驚きです。

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