一方で、関係者の「それはちょっと……」という声に、あえて耳をふさいで書いた部分もあります。例えば「あれでは狂徒セラミックだ」という、世間の中傷の言葉なんかがそうです。従業員は洗脳されているというような批判は、やっぱり京セラとしては書いてほしくない。でもその当時の環境の中で、死に物狂いで奮闘した姿を表現したければ、うそは書けない。
思いの強さが圧倒的な人
──本人に会い、関係者や資料にも当たって、稲盛氏をどんな人だと結論づけますか。
思いの強さが圧倒的な人、でしょうか。思いありきということを、人生を通して感じさせられます。もともと意志が強いのでしょうが、稲盛氏自身が思いの大切さを自覚したきっかけは、松下幸之助との出会いです。
講演を聴きに行くと、幸之助が「誰よりも強く思うことが大事だ」と言った。みんなはもっと具体的な指南を期待していたのでいすからずり落ちそうになったのだけれど、ただ一人自分だけは鳥肌が立つほど感動したと言うんです。「そうだ! 経営者が誰よりも強く思わずして、従業員が思うはずはない」と。
自分の中にすでにあったものが、幸之助という触媒で確信になったのでしょう。それ以降、稲盛氏は「思い」という言葉をしばしば使うようになっています。ただ、その思いが正しくないと、逆に大きく振れてしまう。思いの強さと方向性が掛け算で効いてくるわけだから。だから「邪なし」なんです。
──「思いでは食えない。結局、儲けた者の勝ちだ」という向きもビジネスの世界にはあります。
そういう人には、「大事なのは儲けることじゃない。儲け続けることだ」と言いたい。一時的にでも儲けることは確かに難しい。しかし継続的に儲けることはもっと難しいんです。どうすればそれができるのか、先人はずっと思い、考え続け、近江商人の「三方よし(買い手よし、売り手よし、世間よし)」のような法則を見いだすのです。
京セラは創業以来一度も赤字を出していない、驚異的な企業です。これは稲盛氏が自分なりに思い考え続け、経営の法則を見いだし、それを京セラフィロソフィという長文にまとめて従業員に伝えてきたからです。軸となる理念がなければ、優れた人も組織もありえないのです。
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