1999年が映画の「当たり年」と断言できるワケ 「マトリックス」「ファイト・クラブ」豊作揃い

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――クリストファー・ノーランは監督デビュー作『フォロウィング』を99年のスラムダンス映画祭に出品した。同年のサンダンス映画祭ではダグ・リーマンの『go』とトム・ティクヴァの『ラン・ローラ・ラン』が高い評価を受けた。こうした時系列をシャッフルさせる映画が、なぜそれほど観客に受けたのか。

ノーランに言わせると、VHSやDVDの登場で、観客は映像を一時停止させたり、後戻りさせたりすることに慣れた。同感だね。でも、クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』(94年)の大成功も関係があるだろう。これは時間軸を入れ替えた最初の映画ではないけれど、興行収入が1億ドルを超えた初のインディーズ映画になり、アカデミー賞の脚本賞も受賞した。だからスタジオもこんな手法にゴーサインを出すようになったのだと思う。

――『アメリカン・ビューティー』はアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞などを獲得したが、今では評判が悪い。しかしあなたはこの本で、観客にうっすら覚えられているよりもいい、と書いている。

僕も公開当時は好きじゃなかった。そのうち世間でも「テレビドラマの映画版だ」と酷評され始めた。でも見直すうちに、当時は批判された作品の設定が現代に見事に重なると思うようになった。淫行おやじと隣人のナチ信奉者を描くなんて、当時はやり過ぎだったかもしれないが、今なら違和感がない。

『マトリックス』はまさに今の時代を描いていた

――20年後の今、未来を予見していたと思う映画は?

『ハイスクール白書』のヒロインを悩ませる女性差別には、今の僕らのほうが敏感だろうね。『マルコヴィッチの穴』はインターネットそのもの。ネット社会では他人の経験を自分がした気になることも、他人の人生を乗っ取ることもできる。

『ファイト・クラブ』のテロリスト集団スペース・モンキーズが行う破壊工作は、ネットの荒らしやいじめを思わせる。彼らは深い考えもなしに、ゲーム感覚で何かを破壊するんだ。

だが断トツで時代を先取りしていたのは『マトリックス』だ。赤い薬と青い薬は、僕らも毎日選んでいる。現実に戻る薬を飲むのか、現実を見ずに済む薬を飲むのか。怖くなったり悲しくなったりするのを承知で、そういうニュースをクリックするのか。それとも気晴らしになるサイトをクリックするのか。人工知能が人間を超え、人のエネルギーを吸い取る。まさに、いま起きていることじゃないか。

――年月を経て、評価が上がった映画は?

評価よりも見る目が変わった。『インサイダー』を公開時に見たときは、若きオタクとしてアル・パチーノとラッセル・クロウのガチな演技合戦に興奮した。報道サスペンスは好物だしね。今は企業の不正に警鐘を鳴らした点を評価したい。あれはたばこ産業批判に始まり、企業に屈しやすいジャーナリズムへの戒めとして終わる。

『シックス・センス』もそう。20代の僕には先の読めないクールなサスペンスだった。子供を持って初めて、どんなに頑張っても確実に子供を守ることはできないし、気持ちも完全には分かってやれないという親の不安を描いていると気付いた。

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