ネット上に「マナーポリス」が横行するわけ 日本人はなぜ「マナー=正解」が大好きなのか

✎ 1〜 ✎ 113 ✎ 114 ✎ 115 ✎ 最新
拡大
縮小

なぜそれが必要かと言われれば、まったく理由が説明できない非合理ルールであっても、「慣習」「決まり」「風紀」「伝統」とか言われてしまえば、ぐうの音もでない。

こうした「古くからの伝統系ルール」に加えて、「エレベーターで話してはならない」とか、「飲み会に誘ってはならない」とか、「男性上司は女性の部下と2人きりで食事に行ってはならない」といった「新ルール」も次々と登場し、もうがんじがらめなのである。

例えば、この東洋経済オンラインの記事の中にも「キャリア女性はパンツスーツがいけない」と説く説が登場したが、いったい、いつの時代の「マナー」の話なのかと困惑した。

筆者が1990年代に記者として北朝鮮を訪問したとき、女性がみな極寒の中でスカートをはいているのに驚いたが、「女性はパンツをはいてはならない」という指導部の考えがあるからだ、とガイドから聞いて、同情しかなかった。

アメリカでも1993年まで、上院ではパンツをはいてはならない、というルールが存在していたように、女性にとってパンツスーツは、「長い戦いの末、勝ち取った権利」であり、男女同権の象徴的存在という意味合いもある。「伝統」なのか「お作法」なのか、もしくは男性ウケを考えて、「パンツNG、スカートOK」なのか、理由はよくはわからないが、やはり、こうした根拠なき「マナー」には違和感しかない。

「正解はたった1つ」でそれ以外は不正解

ただ、「はい、これが正解です。あなた、そんなことも知らなかったの?」という問いかけは、たぶん、今、日本人がいちばん好きなレトリックなのかもしれない。テレビを見ると、クイズ番組、常識番組が花盛りだ。雑学やニッチな知識を問題にし、「知っている人」が偉くて、「知らない人」をバカにする建付けだったりする。すべての問いに「正解はたった1つ」。それ以外は不正解、価値がないのである。

コンピューターで調べれば何でもすぐに答えが出てくる時代に、「雑学のような知識」で人の知性を測る手法もいかがかと思うが、「思考力」よりも「知識」に価値が置かれやすい。

昨今の「教養ブーム」について、「会社で出世しなかったり、うまくいかなった人たちが、俺は『教養』があるんだ、と成功者をバカにするための、ルサンチマン(弱者が強者に対して、憤りや憎悪の感情を持つこと)的意味合いがある」と、ある専門家が解説していたが、「マナー」にもそういった側面があるのかもしれない。

次ページ「マナーポリス」化を招く原因とは?
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT