プーチンと金正恩、初の首脳会談が持つ意味 ウラジオストクにおける虚々実々の駆け引き

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日程を調整すれば24日にウラジオストクを訪問することもできたが、プーチン大統領は首脳会談前に金委員長の性格や行動についてもう少し情報を収集するため、敢えて1日待たせたように、筆者には思われる。事前に重要な面会相手の情報をできる限り知りたいというプーチン大統領独特の手法だ。金正恩が初めてのロシアでどのような反応を示すのか、プレスへの対応を含めて様子を見たのかもしれない。

そのことはプーチン大統領にとって金委員長は未知の指導者であるということも示している。

祖父の金日成(キム・イルソン)はソビエトが育てて送り込んだ指導者であり、父の金正日(キム・ジョンイル)は極東ハバロフスク地方で生まれ、ソビエト・ロシアにとって馴染みのある指導者で、側近を含めて人脈が豊富だった。2人ともおそらくロシア語を理解していた。また異母兄で暗殺された金正男(キム・ジョンナム)もロシアをたびたび訪れていた。

しかし金正恩がロシアを訪れた記録はない。ジュネーブに留学して、バスケットボールが好きで、アメリカ文化を好む傾向はあるが、ロシアへの思い入れは見えない。今回の訪問での表情を見てもロシア語は理解していないと思われる。

金委員長は過去にプーチンの招待を断っていた

プーチン大統領にしてみれば、金委員長が最高指導者に就任して以来、たびたびロシアに招待したのに袖にされ続けた、待たされたのはこちらだとの思いがあるかもしれない。プーチン大統領が金正恩をロシアに招へいしようとしたことは明らかになっているだけで少なくとも2回あり、ともにドタキャンに近い形で袖にされている。

最初は2015年5月、第2次大戦80周年の対ドイツ戦勝記念日だ。当時の北朝鮮の国防大臣がモスクワを訪問して、金正恩の最初の外国訪問にほぼ決定したと思われたが、ドタキャンされただけでなく、訪問の準備にあたった国防大臣は粛清された。次に動いたのは昨年で、2018年9月の東方経済フォーラムである。中国の習近平国家主席が初めて出席し、日本の安倍首相に加えて、プーチン大統領は目玉として金委員長の経済フォーラム出席を働きかけていた。実際に準備は進められたが、これもキャンセルさせた。

ロシア北朝鮮国交樹立70周年の記念式典のあった10月にも金委員長はロシアに動かなかった。この間、ロシアの指導部で金委員長に面会したのは昨年5月のラブロフ外相だけという状況が続いていた。それだけに1日くらい待たせても当然ではないかとの気持ちがプーチン大統領にあったのかもしれない。

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