プーチンと金正恩、初の首脳会談が持つ意味

ウラジオストクにおける虚々実々の駆け引き

プーチン大統領の発言には、若い指導者に改めてロシアと北朝鮮の長い歴史を想起させ、それゆえに「苦しい時に誰に頼るべきか」を語り掛けたように思える。金委員長が核とミサイルの実験を繰り返し、最大の後ろ盾・中国とその指導者・習近平主席との関係も厳しい状況にあった2017年当時から、プーチン大統領は金委員長に好意的な発言を繰り返していた。「北朝鮮は草を食んでも核兵器を放棄しないだろう」「この状況の勝利者は紛れもなく金委員長だ」。

プーチン大統領は国家の安全保障の柱は陸軍と海軍だと公言している。核とミサイル開発を進める金委員長の行動は認めるわけにはいかないが、「若造なかなかやる」と思っていたかもしれない。

クレムリンは今回の会談をプーチン-金のラインが確立した点で大成功と評価している。公式行事が終わった後、プーチン大統領は、ロシアの伝統料理と赤軍合唱団などによるロシアの伝統歌謡と踊りで金委員長をもてなし、杯を重ねた。プーチン大統領は宴会の最後に、コーカサス伝統の短剣とガラスのティーカップのセットを金正恩に贈った。鉄道などの長旅に備えての贈り物である。次はゆるりとモスクワまで、という気持ちであろう。

カフカス風短剣は「キンジャール」とも呼ばれる。プーチンがアメリカに対抗して配備を進める最新鋭の空中発射型の超音速中距離核ミサイルと同じ名前である。「アメリカに対抗するロシアの力を理解しなさい」との示唆であろう。一方、金委員長は、朝鮮伝統の刀をプーチン大統領に贈った。強いロシアが後ろ盾となることへの期待であろう。ロシアでは刀をもらうことは争いを招くとの言い伝えがあり、プーチン大統領は伝統にしたがって金委員長にコインを渡して買い取ったことにした。

トランプ大統領に”仲介者”としてアピール

金委員長との信頼関係というカードを手にしたプーチン大統領は、トランプ大統領と5月3日に1時間以上にわたって電話会談を行った。ここでプーチンはトランプに金正恩との首脳会談の中身を詳しく説明し、「北朝鮮が誠実に自らの義務を実行した場合、相応の措置として制裁による圧力を弱めなければならない」と強調したとしている。金正恩との信頼構築のカードを米朝の非核化協議に向けて早くも使い、“仲介者”としての存在感を示したのである。

トランプ大統領は新たな核軍縮の枠組みに関する交渉をロシアとともに中国も含めて交渉したいとしている。プーチンも新たな核軍縮の枠組みに中国を含めることには異存はない。3カ国の交渉は、INF(中距離核兵器)全廃条約を米ロが破棄した後の中距離核兵器にどのような枠組みを造るのかが、焦点となるはずだ。その意味で、極東、北東アジアが焦点となるだろう。3カ国の交渉が動き出せば北朝鮮の所有する中距離核兵器をどうするかという問題も議題となるだろう。日本の安全保障にも直接かかわる話だ。

一方、金正恩は5月4日、9日と短距離の“飛翔体”の発射を行った。9日について、日米は短距離弾道ミサイルと断定した。北朝鮮側の発表した写真を見ると、ロシア製の移動式短距離ミサイル「イスカンデル」に形状がよく似ている。北朝鮮が、はたしてロシア由来の技術を入手しミサイルを進化させているのか、ソビエト以来の両国のつながりがあるだけに気になるところだ。

プーチン大統領の次のカードは何か。プーチン大統領は北との間でさらなる首脳間の相互交渉を進めるよう動き、その中でいつ自らの北朝鮮訪問のカードを切るか、考えているだろう。

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