アメリカは「神の国」行きの巨大な列車だ 宗教的幻想と技術革新が生む「SF的現実世界」

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そのようなアメリカの姿を体現するのが、ラスベガスやディズニーランドだろう。どちらも何もない荒野につくられた人工都市だ。

フロリダ州の「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」は、世界最大のリゾート施設だが、ディズニーは当初、これを「エプコット(EPCOT)」と名づけた。「Experimental Prototype Community of Tomorrow(実験的未来都市)」の略である。単なる遊園地を超えて、都市を丸ごとつくるつもりだったのだ。

この構想はさすがに実現せず、「エプコット」は現在、ワールド・リゾートの中にあるテーマパークの名称になっている。ただし、当初の発想がまったく失われたわけではない。エプコットの大きな呼び物は、未来世界をテーマにした「フューチャー・ワールド」というエリアなのである。

絶対的な現実など存在しない

20世紀に入った頃、相対性理論、構造主義、パラダイム論といった考え方が学問の世界で次々と登場し、「現実とは相対的なものである」という認識が一般化した。アメリカのファンタジーランド化は、これによって強化される。

現実とは多数派が「現実だ」と見なしているものにすぎず、絶対的なものではない。何が現実かは、なんと多数決で決まるのだ。ポストモダン系の出版社「SEMIOTEXT(E)」が好む表現にならえば、「コンセンサス・リアリティ(通説としての現実)」である。

同社はSFアンソロジー『SEMIOTEXT(E) SF』も出しているが、そこには「現実などSFに耐えられない者がすがる杖にすぎない」というスローガンが登場した。しかしアメリカそのものがSF的な国なのだから、これは「現実などアメリカに耐えられない者がすがる杖にすぎない」と読み替えられる。

ドナルド・トランプ大統領は最近、メキシコとの国境を封鎖すると主張した。不法移民が年々増えているからだというものの、国境で拘束される者の数は実は減っている。2018年は約40万人だったが、これは2000年(160万人あまり)の4分の1。アメリカからメキシコへの輸出の8割が陸路を経由していることを考えても、国境封鎖などメチャクチャな話だろう。

トランプは自分の妄想と客観的現実との区別がつかなくなっているのだ。だとしても、アメリカが「主観的真実に基づいた現実」を作り出すファンタジーランドである以上、彼が間違っていると言えるかはわからない。「それは絶対的現実という時代遅れの概念にこだわる者のタワゴトだ」と反論されるかもしれないではないか。

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