本書でアンダーセンは、「非合理的な幻想を抱えつつも、アメリカは長らく現実世界に踏みとどまり、合理的に発展してきた。ところが20世紀末、幻想にたいする歯止めが利かなくなってファンタジーランドが完成、経済が頭打ちになる一方で、トランプのような大統領が出てきた」という論理を展開する。
だが、それは少し違う。アメリカは狂気と幻想ゆえに覇権国となったのだ。というのも、幻想の正当性は物質的な裏付けによってのみ証明されるからである。
理解のカギは、アンダーセンも取り上げた有名な映画『オズの魔法使』に隠されている。クライマックス、魔法使は脳みそのないカカシを賢くしてみせるのだが、その際、彼はこう主張した。
魔法使はインチキな卒業証書を取り出してカカシに渡す。それを受け取ると、カカシの頭は本当によくなるのである!
同様、勇気のないライオンは、勲章をもらっただけで本物の勇者になる。ハートがないブリキ人間も、ハート型の記念品をもらっただけで心を宿す。
この展開が「どんなことであれ、心から真実だと信じれば、それが真実なのだ」という発想のバリエーションなのは明らかだろう。同時に注目すべきは、魔法使のインチキ話がすべて「モノ」によって裏打ちされていることにほかならない。
アメリカでは主観的真実こそが現実だ。しかしそれは、ただ幻想を抱けばいいということではない。幻想の正しさを証明するかのように見えるモノを手に入れねばならないのだ。
その意味でアメリカは「物質的な豊かさを伴った幻想こそ、真の現実だと見なす国」と規定しうる。幻想が極端であればあるほど、物質的裏付けへのこだわりも強まる。だからこそアメリカは繁栄し、世界の覇権国となったのである。
世界を支配する魔術的思考
ただしアメリカを「世界最大の幻想大国」と位置づけるアンダーセンの姿勢は、それ自体がアメリカ的な幻想という側面を持つ。
20世紀における最大のファンタジーランドは、むしろ社会主義諸国だろう。政治的イデオロギーにすぎないものを絶対の真理のごとく信じ込み、それに従って行動しさえすれば、豊かで平等な理想社会が生まれると考えたのだ。宗教色こそ薄いものの、これは合理主義の仮面をかぶった幻想、ないし魔術的思考である。
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