こう書くと「思い込みではなく、事実を尊重して行動すべし」と教えているようだが、実はそうではない。
「信じていること」とは、「君はこの分野に進むべきだ」とか「君はこの方面に向いている」という具合に、周囲から教え込まれた思い込みと定義される。他方「知っていること」とは、「自分はこれをやるために生まれてきた」という理屈抜きの信念なのである。
要するにカールソン、「何かをやりたいと本気で思ったら、世間の常識にとらわれず、信じる道を行け」と説いているのだ。それはそれでよいものの、主観的な信念が「事実」のごとく扱われ、世間の常識が「思い込み」のごとく扱われるのは、話が逆ではないだろうか?
しかしこの逆転こそ、「どんなことであれ、心から真実だと信じれば、それが真実なのだ」というアメリカ的発想の表れにほかならない。カールソンはこうも述べる。
「何かを知るというのは、つねに本能的な行為だ。頭で考えてたどりつくのではなく、直観的に正しいと感じられることが真実なのだ。そこに迷いが入る余地はない」
アメリカは主観的真実を追い求めたあげく、幻想が現実を圧倒する国、つまりファンタジーランドと化したのである。
独立戦争と宗教的原理主義
主観的真実への強いこだわりの根底には、原理主義的な宗教性が潜んでいる。
アメリカ開拓の祖と見なされる「ピルグリム・ファーザーズ」は、ヨーロッパに居場所を見いだせなかった急進的・原理主義的キリスト教徒の集団だった。新大陸をエデンの園のごとく見なし、理想のユートピアをつくろうとしたのだが、このような宗教的ラディカリズムこそ、アメリカの基本的な特徴となる。
1776年、独立戦争の直前に刊行され、大ベストセラーとなったトマス・ペインの『コモン・センス 完全版』も例外ではない。合衆国建国のマニフェストともいうべき書だが、ペインはこう説いている。
ペインは「愛国の霊言」というパンフレットも書いた。イギリス軍との戦いで戦死した将軍の霊が天国から降りてきて、独立への決起を促すというオカルトじみた代物だが、こちらにも次のくだりが登場する。
「アメリカをめぐる情勢には、ヨーロッパ中が注目している。いや、全世界と言い直そう。驚くなかれ、天使たちまで熱いまなざしを向けているのだ。天国から来た私が言うのだから信用したまえ」
目が点になるというか、ほとんど笑い出してしまいそうだが、アメリカ人はこれらの文章を読んで銃を取り、闘志満々で戦場へと向かったのである!
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