あのシヤチハタが令和でも強い存在感放つワケ 業績は伸長、「印章の代名詞」であり続けたい
後述するが、同社は1995年からパソコン上で決裁する「電子印鑑」も手がけている。だが好業績を下支えするのは、「ネーム印」に代表される既存事業の深掘りなのだ。
「ネーム印も、ボディを着せ替える商品をたくさん出しています、例えばスマホカバーのデコレーションを思わせる品もあれば、動物をモチーフした品もある。定番カラーを出し続ける一方で、使って楽しくなる訴求もしてきました」(同)
この商品は数百円から高額品まである。キャップとボディをクリスタルガラスのラインストーンであしらうものは標準小売価格で3500円だが、一定の需要があるという。
この10年、文具の「個人買い」に訴求した
ここまで凝ったネーム印のボディを開発するのは、消費者の意識が変わったからだ。
長年、好不況の影響を受けにくいといわれた文具業界だが、2008年のリーマンショック以降はそれが通用しなくなった。とくに経費節減のため、文具品を「会社購入」から「個人買い」に切り替える企業が増えた。舟橋氏はこんな体験を明かす。
「当時、出張で東京のホテルに泊まったとき、フロント係の女性が当社のピンクのネーム印を使っていた。門外漢のふりをして『こんな色があるのですね、個人で買われたのですか?』と聞くと、『ええ。会社が買ってくれないもので』と答えられました。それ以来、ネーム印を使われる場面に遭遇したときは、できるだけ聞き続けた。その経験では、黒以外のネーム印を使う方の大半が、個人買いでした」(同)
新入社員のデスクに、会社が「文具一式」を準備するケースは少なくなった。「ネーム印」も、会社で一括購入する場合は定番の黒が中心だろう。一方、個人で買う場合は、少し遊び心や楽しさを込めて選びたい。そんな風潮に目くじらを立てない時代にもなった。
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