不振店再生に一筋の光、業態転換に活路見出すイトーヨーカ堂《特集・流通大乱》

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商圏の再調査から生まれたホームセンター業態

続いて参入したのがホームセンター(HC)事業だ。昨年11月、ヨーカ堂金町店の2階部分を改装し、「セブンホームセンター」を開業。1500坪の広さを生かし、日常生活に特化した5万品目をそろえる。工務店向けなどプロ用商品は絞り込み、洗剤など毎日使う消耗品1000品目を通常の1~2割安く販売する。来店頻度の向上が狙いだ。

商品の7割は新たな取引先から調達している。ザ・プライスと同様の手法で品出し作業を軽減。販促チラシは有効期間を延ばし3分の1に減らした。販売スタッフも約3割削減し、ローコスト化を図る。販売員数を減らした分は「店員呼び出しボタン」を14カ所に設置するなどで補う。

同店はJR常磐線、金町駅前の幹線道路沿いに位置し、35年の歴史を持つ古い店舗だ。リニューアル以前から1階は食品、2階はフロアの7割が衣料品、残りが住関連という構成だった。ここでも2階の衣料品が足を引っ張り不採算状態が続いていた。閉鎖も検討されたが、再調査すると商圏内に住関連の専門店が極めて少ないことが判明。そこで、「衣料を捨て、専門性を高めたHC展開を決めた」(金子透・売場開発第一プロジェクトリーダー)。グループ初の試みだったが他店でも実験せず、現場の社員研修も1~2カ月程度のスピード出店だった。

実は、GMSのHC参入は、ヨーカ堂が初めてではない。現在ウォルマート傘下の西友は、80年代にDIY用品や生活雑貨を集めた「DAIK」業態を独自に開発。一事業部門だった無印良品と合わせ、住関連売り場に導入した時期がある。ただ、業態確立には至らず、業績を牽引することもなかった。これに対し、金子氏は「アイテム数や品ぞろえの充実度が違う」と胸を張る。

一般客からプロまで来店するHCは、「食品のように単に並べれば売れる業態ではない」(業界他社)。特別な知識と接客が求められる。金町店でのノウハウ習得と、ほかの店舗への還流が今後の課題となるだろう。

ヨーカ堂にとって、商圏状況が大きく変化し、苦戦を強いられる駅周辺店舗の活性化問題は長く頭痛の種だった。だが、新業態を活用すれば、出店余地がなく進出できないライバルたちに大きな差をつけることができる。今後、HCは食品売り場のリニューアルと合わせて転換を進める。ザ・プライスと組み合わせた出店も検討していく。

しかし、最大の懸案は、やはり深刻な不振が続く衣料品だ。本来、最も粗利益率が高い部門だけに、その打撃は甚大。営業最高益を記録した92年度は売り上げの3割を占めていたが、現在は2割弱まで落ちた。

抜本的改革は05年に始まった。商品政策の柱とすべく、グループ各社から独立した「IYG(現セブン&アイ)生活デザイン研究所」を設立、伊勢丹出身のカリスマバイヤー藤巻幸夫氏を社長に招聘した。商品企画から物流・販売まで統括する「製造小売業(SPA)」モデルを提案し、新規ブランド「pbi(ペーベーイー)」や「epom(エポム)」を開発し、復活にかけた。それでも、専門店との競争激化で落ち込みに歯止めが掛からない。結局、藤巻氏は体調不調を理由に衣料部長を退き、そこで改革は頓挫した。

衣料改革の難関は残る 新たな青写真描けるか

GMSの衣料不振に対しては、「成功体験が災いし顧客ニーズをつかめない。縮小均衡ではなく、トップが切り捨てを決断すべき」(業界幹部)との指摘もある。だが亀井社長は「面積や構成比は弾力性を持たせるが、衣・食・住というヨーカ堂のベースは変わらない」と否定。SPA化を突き詰め、ファッション性の高い商品を開発し、ライバルの専門店に真っ向勝負を挑む構えだ。ただ、専門店側からすれば、「GMSの衣料はすべてが中途半端。商品政策に特徴のないのが特徴」(関係者)。衣料不振という最大の難関突破には、まだ時間がかかりそうだ。

赤ちゃん本舗をはじめ、ロフトやアインファーマシーズなどの専門店に独自の新業態を従え、いくつもの“カード”を手に入れたヨーカ堂。今後は新規出店を控え、不採算店の業態転換を推進する。転換に際しては、店舗ごとに商圏調査を実施。人口構成や家族構成などのデータだけでなく、パート従業員を動員し、各家庭の可処分所得やエンゲル係数の聞き取りまで行う徹底ぶりだ。現在、首都圏を中心に、中・小型の十数店が業態転換の候補に挙げられている。

「従来のGMS業態にはこだわらない。店舗ごとの調査を参考に、検証しながら改革を進める。そうして変わらなければ、ヨーカ堂は生き残れないだろう」と亀井社長。業態転換を武器に、GMSの新たな成長を描けるか。それとも単なる止血にとどまるか。改革の成否はヨーカ堂自らの本気度にかかっている。

(週刊東洋経済)

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