不振店再生に一筋の光、業態転換に活路見出すイトーヨーカ堂《特集・流通大乱》
ヨーカ堂流陳列を捨て食品安売りに挑戦
口火を切ったのは、最も得意とする食品だ。08年8月、不採算だった西新井店(東京・足立区)をリニューアルし、ディスカウントの新業態「ザ・プライス」を誕生させた。
ザ・プライスの目玉は食品。大根1本68円、ホウレンソウ1束88円など、定番野菜を筆頭に生鮮品の品ぞろえに特に力を入れている。野菜は農家と直取引、魚介類は卸売市場から買い付けるなど、新規に取引先を開拓。原価低減と並行してヨーカ堂と同等の鮮度を実現した。アイテム数は1万6000と約半数に絞り、1商品を大量に陳列。通常価格の1~3割引で販売する。
実は、ヨーカ堂は同名のディスカウント店で一度失敗している。旧ザ・プライスは食品を扱わず、家電やブランド品が中心だった。再参入となる今回は、明確な差別化を目指し、得意の食品に狙いを定めた。
プロジェクトリーダーの渡辺泰充氏に、ディスカウント再参入の指令が下ったのは08年6月。「これまでにない、新世代のディスカウント店をつくれ」。渡辺氏はかつて、ヨーカ堂の中国進出を指揮。帰国後も横浜店長として、売り上げ1位の商品をいくつも生み出した頭脳派だ。「安さだけでは顧客の支持を得られない。チープさを感じさせない、おしゃれなディスカウント店を目指す」と主張。キッチン雑貨の関連販売や、店内加工の総菜にこだわるなど、ヨーカ堂のノウハウを生かしつつ、徹底したコスト削減策を実行した。
まず、バックルームにあふれていた在庫を、すべて売り場に置くように指示。どのコーナーの陳列棚にも、天井に届かんばかりの段ボールが積まれた。売り場とバックルームを行き来せずに品出しが可能になり、発注も効率化。顧客の問い合わせにも、待たせることなく対応できる。
さらに、牛乳はラックごと、納豆パックは段ボール入りなど、多くの商品は納入時の状態そのままに並ぶ。箱ごと取り換えれば、売り場の手直しもひと手間で済む。値札は電子表示を採用。コンピュータから直接操作し、変更の手間を省いている。
スタッフが新しい仕組みに慣れ始めると、店舗の作業効率は劇的に改善した。チラシなどの販促も抑えることで、販管費率は15~16%を達成。当初は、「経験のないヨーカ堂が一朝一夕でやれるわけがない」と陰口をたたかれたが、他社に見劣りしない水準にまでこぎ着けた。
ザ・プライス西新井店は予想を超える盛況で、オープン翌月に単月黒字を達成。客数は2倍近い水準で推移している。「中高年だけでなく、ベビーカーを押す若い主婦も見掛けるようになった」と渡辺氏。新規の顧客を開拓したため、自社競合していたアリオの売り上げに影響はなかった。11月には早くもヨーカ堂川口店を転換し2号店がオープン。こちらも順調な滑り出しだ。
西新井と川口の成功で、ザ・プライスの候補店は当初の3~4店からさらに増加し、鈴木会長は来期10店舗以上の転換を宣言している。検討開始からわずか1年足らず。新たな業態としてはこれまでにないスピードで、多店舗化へ舵を切る。