「麻雀放浪記2020」が映画界に投じた2つの問い ピエール瀧被告出演作は宣伝手法でも大決断
同作に限らず、近年、出演者の不祥事や事件が起きたことを受けて、映画やドラマなどの公開を中止・延期・再編集、といった対応を行うケースが増えてきたことに、多田社長も「東映としても、個人としても、ちょっと行き過ぎだなという印象を持っていました。スタッフが総力をあげて作ったものをボツにしていいのか、はなはだ疑問に思っておりました。東映も株式会社なのでコンプライアンスの面で悩みもありましたが、それでも映画会社の責任として公開をしたい」とコメントした。
本作のメガホンをとった白石和彌監督も「犯罪は許されることではないが、それでも作品に罪はないのではないだろうか」と疑問を投げかけた。
このニュースが報じられてから、いろいろなネットの反響を確認したが、一部から「けしからん」といった意見はあったものの、全体的にはおおむね「東映の決断を評価したい」といった声が多かったように思う。もちろん犯罪を許してはいけないということは言うまでもないことだが、それでも近年のあまりにも過剰な自粛ムードはいかがなものか、という気分もあったのだろう。そういう意味で、この映画をめぐる状況が現代社会に投げかけた意義は大きい。
阿佐田哲也の名作をブラックコメディーに仕上げる
本作の原案となったのは、昭和を代表する阿佐田哲也(色川武大)のアウトロー小説。1984年には和田誠監督、真田広之主演で映画化され、多くの観客の支持を集めた作品だ。
「プロデューサーから声をかけられたときは、何を考えているのかと思った。原作は傑作だし、映画も傑作。やる理由もないし、断ろうと思いました。でも(主人公が)近未来にタイムスリップにしたらどうかというアイデアをもらって。最初は馬鹿にしていたけど、考えてみると、ブラックコメディーだし、世の中がきな臭い方向に向かっている時期だったからこそ、そういうことをコメディーの中にちりばめるのはいいかなと思うようになりました」と、白石監督は引き受けた経緯をそう振り返った。
白石監督といえば、『凶悪』や『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』といった代表作を持ち、ブルーリボン賞を2年連続で獲得する快挙を成し遂げたばかりの、今、最も旬な監督の1人だ。しかし、守りに入ることなく、今回の作品でさらに突き抜けた方向に舵を切った。「そんな名誉ある賞をとった後の一発目がこの作品ということで。そういう意味では若干、誇らしい気持ちもありますよね」(白石監督)。
映画公開をめぐる騒動で注目を集めることとなった『麻雀放浪記2020』だが、実はその前から映画関係者に挑戦状をたたきつけていた。マスコミや映画を上映する劇場の担当者、関係者などに対して「諸事情により、この映画の試写は、行いません」と宣言していたのだ。
それは主演の斎藤工、白石監督でさえも同様だったそうで、彼らが「もう一度見たい」と試写会への出席を要望しても却下されたというから、かなりの徹底ぶりだ。その背景を知りたいと思い、白石監督にインタビューを打診し、話を聞いている(以下は2月下旬に実施したインタビューでのコメント)。
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