「麻雀放浪記2020」が映画界に投じた2つの問い ピエール瀧被告出演作は宣伝手法でも大決断

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「試写会を一切やらない」という決断を下したのは東映側のプロデューサーだったという。

インタビューに応じる白石和彌監督。在京のスポーツ7紙で構成される東京映画記者会が主催するブルーリボン賞の監督賞に、史上初めて2年連続(2017、2018年)で受賞した (撮影:今井康一)

白石監督は「試写をやらないと聞いたときは、この人は何を言っているんだろうと思いましたよ。試写をやらないと媒体さんも取材に来てくれないし。最低限マスコミ向けの試写はやったほうがいいのではと思うんです。

試写にどれくらい来てくれるのか、そして試写を見た方の素直な意見を聞くことで、作品の手応えを感じていく。今回はそれがなかったから、どれだけ注目されているのか測りようがない。役所広司さんからは『監督、(試写をやらなくて)大丈夫ですか?』と言われたくらい。でもそれは逆に話題性として届いているのかもしれない、とは思いましたけどね」と振り返る。

ただし、試写を行わない代わりに、ムビチケ(デジタル映画前売券)を関係者やイベント来場者などに配布している。その配布数は数千枚とも言われている。3月20日に、一般客を集めた完成披露イベントを行ったが、『麻雀放浪記2020』の代わりに1984年版の『麻雀放浪記』を上映。さらにムビチケを観客全員に配布するとアナウンスし、来場客からの喝采を集めた。

映画宣伝のあり方も何が正解なのか、明確な答えは出ていない。大量のテレビスポットを投下し、鳴り物入りで公開された大作が思ったような成績をあげられなかったということはままある。

その一方で『カメラを止めるな!』のようなインディーズ映画が予想外の大ヒットを記録するということもある。もちろん『カメラを止めるな!』の成功は本当にレアケースなので、そのヒットの道筋がほかの映画に当てはまるとは限らないが、大量露出で話題を集めるという、ヒットの方程式だけでは観客を集められなくなっている。

映画宣伝のあり方がパターン化している

そんな現状について「この映画に限らずですが、映画宣伝のあり方がパターン化しているように思います」と白石監督は指摘する。

「映画をヒットさせるためには、まず出演俳優をバラエティー番組に出して。そして番組の最後30秒くらいで映画の告知をしてもらう。それが宣伝部最大の仕事だと思っているところがある。でも日本の映画の宣伝がそれだけでしか成り立たないのは前々から嫌だなとは思っていた。今回、『麻雀放浪記2020』という、せっかくエッジのきいた変な映画ができたので、宣伝も思い切ったほうがいいよね、という話はもともとしていたんです。

もちろん炎上はよくないと思うけど、公開規模も50館くらいだし、あまり広げる映画でもないので、エッジのきいた宣伝はありだなと。だからと言って、試写をやらなくていいというのはどうなのかなとは思ったんですけど……。でも、最近はそれも悪くないかなと思うようになりましたけどね」と笑ってみせた。

期せずして日本の映画業界に対して2つ問いを投げかけることとなった同作。その決断が吉と出るか凶と出るか。その行方が注目される。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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